A'sW2-59 牡牝の差
「紫さん、いや、ゆかり。
俺はまだ凹んでいるよ。立ち直れないくらいに凹んだ。嫉妬で凹んだし、嫉妬した自分に凹んだ。
そしてゆかりに(ゆかりの本意ではないかもしれないけど)子供扱いされたことに、めっちゃ凹んだ。
ゆかりは、新潟や阪神に一緒に行った友達から勉強してるんだよね。競馬以外のことは知らないけど。
『ワガママゆかりは卒業』というけど、確かに25歳という年齢は、そんな時期なのかもね。
俺は4歳年上だし、やんちゃなゆかりより全然大人だと思っていた。無意識だけど、自意識過剰だったのかもしれない。
競馬に詳しくなったゆかりなら知ってるかもしれないけど、馬だって牝馬の方が成長が早いんだ。確かなデータはないけど、一般論というか、俺の感覚的にね。古馬になっても、やんちゃな牡馬って結構いる。スイープトウショウとか例外はあるけど、牝馬の方が早く落ち着きが出てくるね。
人間も、そんなモンだよ、きっと。ゆかりに何があったかわからないけど、目覚めるきっかけがあったんだと思う。それに対して俺という牡馬は、迫りくるレース(仕事)を駆け抜けるので精一杯だった。
でも30歳を目前にして、いろいろ考えることはあるよ。不安の方が大きいけど。具体的な目標って、特にない。今の会社で社長になろうとか、思ってないし。だからって転職願望があるわけでもないし。競馬で家建てようとか思ってないし。
でも、今を精一杯生きてるつもりだよ。前を向いて走っているよ! これだけはわかってほしい。
なんか…こんな文章書いてたら、照れくさくなってきた。でもまぁいいや。送信ボタン押します。では」
月曜の夜、メッセージを「紫」あてに送信した徹は、精神的な疲労に浸っていた。しばらくパソコンの前でウトウトしてしまった。目を覚ましても返信はなかった。
翌日の昼間に「紫」から返信が届いていた。業務の都合上、徹が会社のトイレでメッセージを確認したのが午後の3時だった。
「徹、大げさ過ぎーA=´、`=)ゞ
驚いた。徹からこんな話聞いたの、初めてだったからね。徹はやっぱり私より大人。それは痛いほどわかった。
私がね、こんなゲームを作った理由の1つって、私自身が大人になりたかったの。1つのゲームの企画・運営をするって大変かなぁと思いつつ、今まで試行錯誤でやってきたのが、私のチャレンジかな。他にも目的はあるんだけど、まだ内緒(´0ノ`*)
徹に会うのが楽しみになってきた。ナナガイキさん、あのロイス3に迫られてるけど、逆転されないでね。じゃあねぇ~(^O^)/」
徹はトイレの中で、思わず涙が流れてきた。ゆかりはまだ、自分を見捨てていない。それがわかっただけで、今は十分だった。惹かれているという友達の存在が、脳裏から消えたわけではないが、見えない敵に怯んでどうすると自分を叱咤した。
涙をぬぐい、トイレを出ようとしたそのとき、携帯が震えた。メールの着信だ。差出人は山下茜だった。