A'sW2-29 徹と茜、新宿にて(1)
徹は時間つぶしに映画を見た後、JR新宿駅の東口で茜と会った。徹と茜は齢が4つほどの違いだったが、男女2人だけで過ごすのは、少し照れくさい気分でもあった。
徹は、少し値段の高い喫茶店に茜と入った。2人とも、積もる話は山ほどあるはず。ドトールやスターバックスでは、1時間以上過ごすのは気が引ける。落ち着いて話せる喫茶店にした。
アイスコーヒーとアイスミルクティが机に運ばれてから、徹と茜は互いに話し始めるきっかけをつかめずにいた。
少しして、不器用に徹がこれまでの経過を話し始めた。ネットでゆかりの手がかりを求めていたこと、【ANGEL's WINE】という競馬予想大会に出会い紫がゆかりであるのではないかと思ったこと、SNSのメッセージで紫が西東京市に住んでいるということ、そして自ら間野ゆかりであることを認めたこと…
「その紫と名乗っている人が本当にゆかりなら、ゆかりは何を考えているんだろう」
「それが全く見当がつかないから、気持ち悪いんだ…」
徹は、各ピリオドの優勝者(つまりロイス3)とデートしたことについては、あえて触れなかった。
「これは、ゆかりには口止めされてたんですけど、彼女、実は去年の終りに、派遣切りの犠牲になったんです…」
「えっ?! 彼女って派遣社員だったの?」
「ええっ? 知らなかったんですか?」
「いや、全く聞いてない。名刺も見せてもらったことがあったんで、普通に正社員だと思ってた…」
「彼女と1月に会ったとき、結構 愚痴を漏らしてたんですよ。あ、いや、徹さんのことではなくて、派遣打ち切りについてね。徹さんにどう話すかも、気にしてました」
徹はしばらく、絶句してしまった。
「…年が明けて、一緒に中山競馬場にも行ったりしたよ、俺とゆかり。その時は、いつものゆかりだったと思うんだ。何の疑いも持たなかったよ。言い方悪いけど、少しわがままな、ゆかりそのものだったはずだよ」
今度は茜の口が開いたが、続く言葉がなかなか出てこない。
「………無理してたんだと思います。年が明けてから私と会うゆかりは、だいぶ憔悴してましたから。実は単純に仕事がなくなったことだけが、彼女の悩みのタネではなかったようなんです」
「他にも何かあったの?」
「……もう言っちゃっていいよね、ゆかり。
ゴメンナサイ、私、誰に対して喋ってるんだろう。実は大学時代から聞いていたことなんですけど…」
<続く>