二ートの僕が子育てをしたら 二十五話
気持ちを伝える
「坂上、高橋さんとブレインゴールドを飲んでいる社員の皆さんに手紙でも書いてみてはどうか?」
とダイゴ先生が僕を見て、唐突に言った。
僕は少し考えて、
「そうですね。高橋さんにはとても良くして頂いているので書いてみます。今まで人に手紙なんて書いたことがなかったので少し恥ずかしい気持ちもありますが」
と言うと、
「お前の中にある気持ちをそのまま伝えれば良いんだよ。かっこうを着けずにそのまま」
ダイゴ先生の言うとおり気負わず、在りのままの気持ちを手紙で伝えよう。
そう考えた僕はすぐにバックから便箋とペンを取り出した。
「拝啓 高橋様
先日は、おいしい朝食と様々なお話をありがとうございました。あれから色々と高橋さんとの会話を思い出して、考えることがあります。
それは遠回りだと思うことがあっても、目の前の些細なことに懸命に取り組むことの大切さです。
僕は今まで様々なことから逃げてきました。
過去や他人のせいにして。
そんな自分のことを今ではとても恥ずかしく感じることがあります。
そして自分自身というものを知れば知るほど、胸が痛む気持ちになります。
弱虫な自分、自信の無い自分、嫉妬する自分。
自分の心のうちを覗けば覗くほど、惨めで厭らしい自分ばかりが見えます。
別に自虐的な気持ちになっている訳ではありません。
ただ、そんな自分が自分の中にいることに気づいたのです。
今そんな自分を振り返ることで、
逃げずに真剣に一つ一つのことに取り組んで行こうと思う気持ちが少しずつ芽生えるようになりました。
後ろ向きなことばかり書いてしまいましたけど、これから僕が前に進むために必要な通過儀礼のようなものかもしれません。
高橋さんのように自信が持てる大人を目指すためには、女々しい自分から卒業しなければなりませんから。
それにブレインゴールドを広めようとしている人間が弱々しくては問題がありますからね。
ただポジティブに考えるとするならば、自分の中にある嫌な部分を振り返る強さをブレインゴールドにもらったような気がします。
嫌な自分に気が付くと胸が痛みます。
この嫌な自分はどれだけの人に同じ痛みを与えたのでしょう。
これから僕は一つ一つを丁寧にやり直して行こうと思います。
そして高橋さんのようなすばらしいビジネスマンを目指して頑張ろうと思います。
また高橋さんのお話を聞かせて頂けましたら、嬉しく思います。
まだまだ高橋さんのお役に立てるような力はありませんが、私なりに精一杯お手伝いをさせて頂ければ嬉しく思います。
今の僕の毎日は精一杯の毎日ですが、高橋さんと出会えたことによって、とても充実した毎日を送っています。
人と出会うことを避けてきた僕でしたが、今では人と出会うことがとても楽しくなりました。
これも高橋さんと出会うことができたからです。
本当にありがとうございます。
敬具
坂上 隆」
僕のこれまでの人生を振り返ると共に、高橋さんにお礼の意味も込めて思ったことを手紙に託した。
「感謝の手紙というより、自分の弱さの告白をしただけかな?」
と恥ずかしく思うこともありながら、素直な気持ちに偽りがある訳ではないから、書き直しをすることなく、そのままポストに投函した。社員の皆様への感謝状も同封して。
それから数日が経った頃、
「坂上、高橋さんから手紙が来ているぞ」
とダイゴ先生から一通の手紙を渡された。
その手紙の主は高橋さんだ。
「拝啓 坂上 隆 様
先日は、とても心のこもった手紙をありがとうございました。
君の手紙を読んで私自身も色々と振り返ることがあります。
私は君が知っている通り、様々なビジネスのオーナーでもあります。
正直に言うと、ここまで来るためには色々なことがありました。
ビジネスの世界には光と影があります。
人は光にしか目を向けませんが、光があるということは必ず影も存在します。
影があるからこそ、光は光として存在することができる訳ですから。
そんな影の部分を良く知っている私から君にアドバイスがあるとすれば、
どんなに辛くても光を忘れないでいること
人はほんの些細なことで暗がりに身を落とすことがあります。君もその経験があるようだから、良くわかるのではないでしょうか。
人は暗がりに落ちると光の存在に気づくことができなくなります。
そうすると人は盲目になり、闇の奥底に転がって行くこともあるでしょう。
私もこれまでいくつもの闇を見てきました。
そして胸に傷を負ってきました。
そんな私だからこそ言えることは、
自分を傷つけるような経験はできるだけしない方が良いと言うこと
君はまだそれほど傷を負っていないから安心しなさい。
なぜ私にわかるかって?
目を見ればわかるよ
君の目には光がある。
君は私に二回ほど公園で話し掛けてきたよね。
最初の君は私をちゃんと見ていなかった。
だから私は君の相手をしないようにした。
二回目に話しかけて来たときは、私を見て話し掛けてきた。
だから私も君に答えた。
君がきちんと相手を見て、話しかければ相手もきちんと答えてくれる。
君がきちんと相手を見なければ、相手も君には答えてくれないだろう。
つまり、人は自分の鏡であるということを覚えておいて欲しい。
あなたが思っていることと同じようなことを人も思っていると言うこと。
君が自分を大切にして、充実した毎日を過ごせば誠実な人達が君のところに集まるようになるであろう。
それは私が約束する。
私から見た君は、とても素直で純粋な心を持った青年だと思う。
過去に辛い体験をして、暗がりに身を潜めた経験があると君は僕に話してくれたね。その体験は君にとっては嫌な記憶かもしれない。
でも今の君はそんなことを気にしなくても良いと思う。
なぜなら、今の君には素晴しい人達が周りにいるじゃないか。
だから自信を持って良いと思うよ。
先程話をしたとおり、
人は自分の鏡
素晴しい人が君の周りに居るということは、君も素晴しいからだ。
そんな君の周りの一人として居られる私は幸せだと思う。
君の目を見ると、私も色々と考えさせられるよ。
また朝食を一緒に食べよう。
君との時間を楽しみにしている一人の友人より」
高橋さんの手紙の文字が僕の涙で滲んでいる。
いつの間にかダイゴ先生の姿も見えない。
僕はぼろぼろと涙を流している。
こんなに優しい手紙を人からもらうのは始めてだ。
僕は高橋さんに出会えたことに心から感謝している。
だって、こんなに嬉しいプレゼントをもらうことができたのだから。
二六話につづく