第三章 二ートの僕が子育てをしたら (26)
僕の大事なものは僕自身
「ガチャ」
ダイゴ先生だ。
「どうだ?少しは自分自身の棚卸しはできたか」
そんなダイゴ先生の言葉に、僕達は無言になった。
明日のことばかりを考える若い僕達にはとても難しい作業だったからだ。
「まぁ、焦るな。そんなものだよ。今日はストーリを考える上で大切なことをお前らに伝えたいと思う。良いか、はじめからあれこれ考えて格好の良いものを書こうとするな。今、お前らが持っている精一杯で表現をしてみろ。例えば、何かに憤りを感じることがあるなら、その憤りはどこから来ているのかを考えてみろ。欲しいものがあるなら欲しいと純粋に思え。その自分の中にある純粋な欲求に耳を傾けてみろ。まだお前らは若い。その若さを武器にするってことだよ。言いたいことを吐き出すのは若い頃にしかできない。吐き出した後に人から批判をされるかもしれない。それでも良いんだよ。闘うんだよ!世の中と。若い時は世の中と徹底的に闘うんだ。斜に構えて大人ぶっていちゃあ、何も始まらない。その闘いこそが生きるってことだと俺は思うぞ」
そんなダイゴ先生の話に、
「でも、批判されるのはやっぱり怖いです。何が起こるかわからないから」
と三上さんが言うと、
「それはそうだ。誰でも批判されるより、評価されたいよな。けなされるよりも褒められた方が嬉しいに決まっている。でもな、批判があるからこそ人は闘う気持ちになるんだぞ。批判に負けるのではなく、批判をエネルギーにすることだってできる。批判をエネルギーにして闘うことは、とても勇気がいることだ。孤独になるからな。誰も頼れない。自分自身の力のみを頼りにして生きる。これはとても勇気のいることかもしれない。でもな、心配するな。そうやって闘う人間には必ず応援者がいる。不思議と出て来るんだよ。そういうおかしな人達が。懸命に生きている人を助けてくれる人達がな。俺も何度か、これまっでの人生で負けて倒れそうな気持ちになったことがある。腐った気持ちになったこともある。どうして思い通りに物事が進まないんだ!と全身で怒りに震えたこともあるよ。その度に詰まらない反省を何度繰り返してきたことか。でもな、生きている限り、そんなことを何度繰り返そうと、やっぱり闘って行かなければならないんだよ」
「俺が世の中に迎合できる人間であれば、最初からそうしている。理解を他人に求めるから苦しむんだ。自分を理解しない世の中なら、そんな世の中をこっちから捨てちまえば良いんだよ。そうしたら楽になれる。言いたいことも言えるようになる。そんな無茶は若い時にしかできない。それがお前らの武器だと俺は言っているんだ。若い時から型に嵌って、無思考のまま年を重ねたままでお前らが満足するのか?それで満足をするのであれば、多分俺の話はお前らにとって無意味だ。時間の無駄でしかない」
僕は驚いた。
あのダイゴ先生でも様々な葛藤があったことに。
「そうやって闘って行く内に見えてくるものだってあるんだよ。
この世の中の矛盾みたいなものにな。
本当は闘わずとも、それはずっと前から目の前に存在しているものだから、見えているはずだが、俺はそれに気づかなかった。だから、闘うことでそれを見ることができた。
そんな俺からすると世間で言われているような綺麗ごとはすべて嘘パチだったってことだ。この世が幸せに満ち足りている?そんなことある訳ないじゃないか。人間が幸せに満ち足りているのなら、どうして戦争なんて起こす必要がある?満たされているのなら、争いごとなんて起こす気持ちが湧くはずが無い。競争なんてする気も起きるはずがないんだよ。
満たされているならな。
たったこれだけのことでも世の中は嘘パチっていうのがわかるだろ?でもな、やっぱり満たされる瞬間というものを人は求めるものだ。それは俺だって同じだ」
ダイゴ先生の言葉に迸る熱に僕は圧倒されている。
三上さんも今野君も僕と同じように。
「ただ愚痴や思い通りにならない現実の腹いせに何かを吐き出すのは良くない。それは淀んでいるものだからだ。
お前らの中にあるたった一つの何かをお前らそれぞれが見出して、それを表現するんだ。
これはとてもしんどい作業かもしれない。
でもな、そのお前らの中に眠るたった一つ言葉が人を突き動かすことがある。孤独を恐れず、誰にも頼らず、自分の足で立つ覚悟ができた時に発する言葉。その言葉こそが人の魂を震わす言葉だ。
それが表現でもあり、自分自身でもある。
そのたった一つの言葉こそが、俺がお前らに教えるビジネスノウハウの根源になることを忘れないで欲しい」
三上さんの目に涙が見える。
僕もなぜだか心が震える。
今野君も。
「ただこれも一つの意見であることを忘れるな。これは俺の人生で感じたことであるからだ。お前らには参考程度にしてもらえれば良いと思っている。
私の言葉や色々な人の言葉を聞いて、自分なりに人生の糸を紡いで欲しい。
それぞれが人生を歩いて、紡いだ言葉こそが自身の言葉になる。自身の言葉は本や講座では得ることはできない。どんなに素晴しい言葉でも、それはその言葉を発する人間のものだからだ。
他人の紡いだ言葉は他人のものだ。
そこには自分の人生が乗っかることはない。これらを踏まえて自分の世界を作って見ろ!良いじゃないか、最初は不格好でも。その内、自分の言葉も見つかるようになるさ」
とダイゴ先生が笑っている。
ダイゴ先生の話を聞いて僕なりに色々と考えた。
僕は人の目を気にして、言いたいことも言わずに人生を歩いてきた。
孤独を恐れるあまりに自分自身の心の声を押し潰してきた。
そうしていつの間にか、
「摂取と排出」
するだけの毎日を僕はこれまでの人生で送ってきた。
こんな僕にだって手にしたいものがある。
大切にしたいものもある。
自分のために人生を生きる
僕を支えてくれた人もすべて僕自身だ。
だから僕は僕自身を大切にする。
僕の周りも大切にすることだ。
小さな自分だけが自分じゃない。
僕の境界線をどこまでも拡大してやる!
その拡大した世界こそ、僕自身だと言うことに気づくことができた。
よし!やるぞ。
小さな自分を大きく拡大してやる。
もう様々なことを否定する人生には疲れた。
自分で決断したことは全て肯定して自分自身を拡大して行く!
そんな決意が芽生えた素晴しい授業だった。
27話につづく