第三章 二―トの僕が子育てをしたら 三十話
最強のコミュニケーション術(後編)
「日本人に対しての有効な褒め方にどんなものがあるのか?わかるか。今野」
今野君はしばらく考えながら、
「そうですね。男性と女性という性別によって褒め方も変るだろうし、また職業や性格によっても効果的な褒め方というのも変ってくるだろうと思います。これは日本だけに限定されている訳ではありませんが」
そんな今野君にたいして、
「そうだ。今野、お前は良い着眼点を持っている。随分、賢くなったな。お前はお前なりに、ちゃんと成長している。俺は嬉しいぞ」
というダイゴ先生の言葉に、今野君がとても嬉しそうにしている。
「そうだ。今野の言うとおりだ。その褒める対象となる人物のことを良く知ることが大事だな。実は俺の友人にこんな人物がいる。その友人の話を聞いて、俺はとても感心したことがある。それは、彼はビジネスの世界でキャリアアップをするために転職を重ねている。そんな彼が職場で重要視しているのは人間関係だ。どんなに仕事ができても、人間関係を円滑に進めることができない人物は、その仕事の効果が半減する。逆に人間関係を円滑に進めることのできる人物は、全力を出さなくても100%以上の結果を残すことができることを彼は熟知をしている。そんな彼が人間関係を円滑にするために活用しているテクニックがあるんだが、お前ら知りたいか?」
僕達は思いっきりうなずく、
「これは俺も一度見せてもらったことがあるんだが、彼は自分の手帳に様々な項目を作って、新しい職場で関係する人の特徴や性格を常に書き込むようにしている。例えば、坂上と彼が知り合ったと仮定すると、坂上は天然だけど人柄は良い。と彼は手帳に書くだろう」
ダイゴ先生の話に三上さんと今野君が大笑いしている。
「三上であれば、仕事が早い、自分で考えて行動することができる、だが意地っ張りなところあり」
三上さんは少し恥ずかしそうにしている。
「今野の場合であれば、意外に努力家であり、洞察力もある。またお調子者の面も」
僕達三人はダイゴ先生の洞察力に驚いている。
「このように自分に関係する人達の特徴や性格そして趣味などを聞き出して、自分のオリジナル手帳に書き込んでいる。彼はそのデーターを基にして、人間関係を円滑に進めるようにしているんだな。凄いと思わないか?俺もそこまで細かく考える人間がいるなんて……と感心したことがある」
ダイゴ先生の友人の話に僕達も驚いている。
「つまり、褒めるテクニックなんてものは存在しないと思え。そんなものは現場では使えない。大事なことはマメにデーターを集めて、そのデーターをベースにし、どう行動するかが大事なんだよ。俺は彼の手帳の話を聞いて、彼がビジネスマンとしてとても有能な理由が良くわかったよ。彼はその心遣いを武器にして、どんどん稼いでいるからな。まぁ、ここだけの話ではあるが……私と彼でその手帳を一般化して、誰もが使えるように商品化したものが、ここにある。欲しいか?」
僕達は驚いた。
ダイゴ先生の知人の方の話にも驚いたが、それを商品にする発想を持つダイゴ先生にも。
「講義がすべて終了したら、お前らにプレゼントしょうと考えていたが……こんな話を聞いたら欲しくてたまらないだろう?ちょっと早いけど、お前らにプレゼントしょう」
ダイゴ先生から思わぬプレゼントを貰ったことではしゃぐ三人。
「この手帳をきちんと使いこなせば、お前達の力は何倍にも増幅する。当然なことだな。しかも強力な味方を作り上げることにもつながる。この手帳は凄いぞ。ビジネスだけでなく、人生も豊かにする。なぜなら、最強のコミュニケーション能力を身につけたも同然だからな。この手帳の中身を見れば、すべてが一瞬にしてわかるからだ。良かったなお前らは俺と出会えて」
とダイゴ先生が笑っている。
「ちょっと中を開いてみろ。項目が凄いだろう。社会心理学からマーケティングの観点も取り入れて製作しているからな。これだけの内容の物はそうそう作れないぞ。これは俺と彼の自信作の一つだ」
とダイゴ先生が得意顔をしている。
僕達三人はその手帳を開いてみた。
「凄いな……これ。相手のことがよくわかるようにとても良く作られている」
僕は心の底から驚いている。
三上さんや今野君の方に目をやると、僕と同じように驚いている。
「この手帳をどんどん使え。それだけでお前らの味方は知らないうちに、びっくりするほど増えていくだろう。これが俺のコミュニケーション能力を飛躍的にアップさせるノウハウだ。口先だけでは人は心を動かされない。日々の細やかな姿勢があってからこその褒め言葉だ。何事も誠心誠意を心掛けて実行することが大切だということだな」
そんなダイゴ先生の話に僕達三人は感動している。
そして、ダイゴ先生の生徒である喜びをかみ締めている。
誠心誠意
これは誰もが知っている言葉であるが、本当の意味で理解している人はどれだけいるのだろう。
この手帳を最初に作り出したダイゴ先生の友人の方は、とても人柄の良い人物なのだろう。
だって、こんな緻密な手帳を作り周囲の人達に元気を与えているのだから。
言葉だけでなく態度でも実行する。
ダイゴ先生は本当に凄い人だ。
僕はダイゴ先生に頂いた手帳を大事に大事に鞄にしまった。
(つづく)