今回ご紹介いたします動画は、イラストレーターのさいとうなおきさんが、イラストの影の付け方について教えてくれる講座です。絵に影を付けると一気に見栄えが良くなり、立体感が生まれて豪華に見えます。

しかし、初心者にとって影を付ける作業は難しいものです。さいとうなおきさんのもとには、影付けが苦手な方からやり方を教えてほしいというリクエストが、かなり多く寄せられるそうです。


動画では、悪い影付けと良い影付けの例を具体的に教えてくれます。一つ目のポイントは、最初から細かい影を付けるのは避けるべきだと言う事です。

基本的にデジタルイラストで影を付ける際は、イラストの上に乗算レイヤーを作成し、そこに影を付けていきます。
 

 



初心者がやりがちな失敗は、イラストのあちこちに小さな影を細かく乗せてしまうことです。このような影のつけ方では絵の見栄えが損なわれてしまいます。

まずは大きな影を描き、それが終わった後で小さな影を追加していく順番で影をつけると、より立体感を感じやすい絵に仕上げることができます。


頭上からの光が当たっている場合は、顎の下に影ができるなどの基本的な知識は必要ですが、影を入れる時はあまり難しく考えず、描く人の好みで決めていいそうです。

例えば「現実的に考えればここに影が落ちるはずだけども、それをすると絵の可愛さが損なわれる」と言うような場合は、リアリティを無視して絵の印象を優先する方がいいようです。





影には二つの種類があります。まず、物自体に光が当たって影になる部分を「シェード(陰)」、そして光が当たった物が地面に落とす影を「シャドウ(影)」と呼びます。影つけはこれら二つの要素を描いていく作業です。

例として挙げられた岩の絵では、大きな影が付いているため立体的に見えています。大きな影を描かずに、表面の凹凸だけに注目して細かい影を描くと、立体感が感じられなくなり、絵の見栄えが損なわれます。


大きな影を描く際に意識するべき点は、奥行きを表現することです。先ほどの岩の絵にもう一つ岩を描き足して、奥にある方の岩を全体的に影で暗くしました。

手前と奥で影のつけ方を変えることで、二つの物体が異なる位置にあることを表現し、絵に奥行きを感じさせる事ができます。


この例では奥の岩を暗くしていますが、逆に手前の物を暗くして奥のものに光を当てることで、奥行きを表現することも出来ます。例として出された人物のイラストに奥行きの概念を追加します。

手前に出ている手に大きな影をつけ、同時に顔を明るくすることで、顔と手が異なる位置にあることを表現しています。また、光を当てる事によって、人物イラストで一番見てほしい部分である顔を目立たせることが出来ます。


さらに、影と光の境目をぼかすことで、滑らかで立体的な表現が可能です。逆に、影と光の境目をくっきり描くとキャッチーな絵柄を表現できます。

落ち影、シャドウ(影)を描く時には、あまり強調して描いてしまうと影だけが目立ち、絵の中の物体の距離感がおかしくなってしまいます。シャドウ(影)を描く際は、色の濃さを目立ち過ぎないように調節して、輪郭をぼかして描きます。





二つ目のポイントは、影の色を意識することです。影付けが苦手な人は、影を立体感を出すためだけのものと考えがちですが、立体感を出すのは影の要素の半分でしかありません。もう半分は演出です。

動画の人物の絵は、影を赤茶色に近いグレーで塗られています。影の赤みを強くすると、絵には暖かく柔らかい印象が生まれます。逆に、影の青みを強くすると冷たい印象や爽やかな印象を与えることができます。


このように、影の色を変えるだけで絵全体の雰囲気を劇的に変化させることができます。これが影色の演出効果です。絵のパーツごとに影の色を変化させることで、影の演出効果を上手に利用できます。

肌の温かさを表現するために人物の肌につける影は赤みの強い色にし、爽やかさを演出するために白い布の部分は青みの強い色にします。色が入っていない灰色の影は清潔感が感じられず、汚さや不潔感が強調されることがあります。


色のついていない灰色を影色に選ぶのは避けたほうが無難です。ただし、狙いがあれば、無彩色の影を利用して特定の印象を強調することもできます。ゲーム「ダンガンロンパ」の絵は、影を無彩色に近いグレーで描いています。

下手をすると汚く見えてしまいそうな色の選択ですが、これが逆に個性となり、慣れてくると「ダンガンロンパ」の絵はこのスタイルでないと許せなくなります。意図的に影をグレーにして、無彩色のマイナス面を上手に利用しています。


三つ目のポイントは、影に統一感を持たせることです。先ほどの、パーツごとに影の色を変えた人物の絵ですが、そのままではまとまりのない印象になります。特に自然を背景にしたイラストだと、影に統一感がないと人物が背景から浮いてしまいます。

この問題を解決する方法が「1.5影」です。1.5影というのは、さいとうなおきさんが名付けたもので、影用のレイヤーを新たに作り、最初につけた影の内側にわずかにずらして影を追加していきます。





1.5影により、光と影の境界線が2段階になり、アニメ塗りでもグラデーション効果をもたらすことができます。そして、絵全体に統一感を持たせることができます。今回の例では、先ほど付けた影の上に紫色の1.5影を載せています。

1.5影は絵全体を一つの色で影付けします。おすすめの色は光の色と反対の色、補色に近い色です。光の色が黄色であれば、黄色の補色である紫色で1.5影を塗ります。


四つ目のポイントは、影を単調にしないことです。これまでに追加してきた影はすべて立体感を出すためのものであり、これだけでは情報量が足りずに単調な印象になってしまいます。

もう一つ影用のレイヤーを追加し、薄い白に近い色を乗算で重ねて1影では拾えないような細かな影を追加します。手の細かい陰影や布のしわや凹凸、髪の毛の艶や流れを強調する陰影をつけます。ただし、強い影は入れないように気をつけます。


最後に、視線誘導のための影を追加します。もう一枚乗算レイヤーを追加し、顔から遠い部分に向かってボケ足の強いブラシでグラデーションをかけていきます。

視線誘導のための影は、慎重に優しくつけていきます。この技術を使用することで、自然な形で視線が顔の方へ誘導されます。動画で紹介されている影付けのテクニックを全て実践するには、相当な手間がかかりますが、その分効果は抜群です。


動画を拝見して思ったことは、イラストを描く手順の一部である影付けだけでも、こんなに手間がかかるのかと言う事でした。作業の一つ一つに理由があり、イラストを一枚仕上げるのにどれだけの時間がかかるのだろうと考えさせられました。

私は趣味でイラストを描いていた時に、一枚の絵を仕上げるのにすごく苦労して、時間がかかり、自分の能力の無さに打ちひしがれていました。しかし、正しい手順を知った上で時間をかけるのであれば、あんなに苦しまなくて済むかもと思いました。