この頃、台所に立って思わず口ずさむのは

小学生の頃に聞いた音楽だったりします。

不思議なほどすんなりと歌詞も口をついて出てきます。

二番三番と歌ううちにだんだん上機嫌になってきて、

草がぼうぼうと茂る夏の川縁を、拾った小枝を振りながら大股で歩いているような

とびきり開放的な気分になります。

水面を反射して銀緑色にかがやく草むらは風が吹くたびざわざわと大合唱し、

蝉も鳥も川の生き物たちも加わって、

さあ歌え、もっと高らかに、と夏の仲間たちの賑やかな大行進が始まります。

その傍で川はきらめきながら、時を超えて心の底辺に清らかに流れ続けます。

 大人に憧れていた子どもの頃には書けなかった童話は大人になった今、

口ずさむように当時心に刻まれた光景を憧れをもって描けるようになりました。

これまで時間という流れの中で出会った感動の数々と、めぐり会えた人々と、

この作品に目を留めてくださった方々に深く感謝申し上げます。



   2017.11.5 樋口鳳香