志村ふくみ、若松英輔往復書簡『緋の舟』。

この往復書簡は、文芸誌すばるに連載されたもの。

若松英輔のあとがきに、

文章において真に影響を受けたと感じる現存する書き手のひとりが、

染織家で人間国宝である志村ふくみである、と記されていた。

志村ふくみの書簡には

リルケ、シュタイナー、ロダン、ゲーテなどが多く登場する。

書評を書かれた堀江先生曰く

「見えないものに対する眼(め)の大切さを説く先達の教えが多く引かれている」と。

中でも、ひとつのことを突き詰める作家としての姿勢を端的に表した言葉に感じられたのが、

ロダンがリルケに初めて会った時に発したと言われる言葉で、

「美しいものだけが美しいのではありません。私はただ仕事をするのです。

 人にはよく仕事をしましたか、と問うだけです」

と、あった。

ロダンはまさに自分だけの絶対的価値観を見い出せ、と言っているのだろう。

ものを創り出す作家は、相対的価値観に自ら縛られて、

他人と比較することでしか幸せも不幸も判断できないようではダメなのだ。

ただ仕事をすればいい。

見返りを求めて、いろいろ言ってくるものや

成就できない不平を並べ立てたり

他人の中傷をしてうさを晴らすような輩には

「あなたはあなたの仕事をよくしていますか」

と訊けばいい。



群れない、頼らない、なにものにも縛られない、孤高の制作活動の先、

無から有を生みだす作家である以上、その先にしか道はないのだから。