メインの女性を描いて、

ふと、その背景に桜を描きたいと思った。

…今日は風が吹き荒れている。

ごうごう音を立てて窓辺をバタつかせ乱入した風は、

部屋の隅々までうずを巻いて暴れて駆け抜けていく。

さくら、さくら、どこかにあった。

さくら、さくら…

数年前にさくらを描いたことがあった。

きっと師匠のテキストか、当時の資料か残っているだろうと

ファイルをひっくり返して探したが…

見つからない。

ばさばさと音を立てて机の書類がひっくり返ったか、

プリント類で散らかった机の下に這いつくばって、

しまいこんだファイルを取り出した。

それはある水墨画仲間からもらったもので、

もらった当時のまま紙袋に収まった状態で置かれていた。

あの時以来、一度も開いていなかったのだ。

同じ師匠についていて、会えばいつも私の作品を褒めてくれる優しい人だった。

最後に見たチューリップをモチーフにした作品と、

須田町の老舗和菓子屋を切り盛りしていた人懐っこい笑顔を思い出した。

だんだんと体調を崩されて、座っているのもきついのだとおっしゃった。

その後、お子様のいないご夫婦だったので、

資料のファイルと幾つかの画材を形見分けしてもらったのだ。

ありがたいことに、私が無くしたのであろう桜の資料はそこにあった。

きっと、そうであろう思ったら、やはりそうだった。

彼女が逝ったのは6年前の6月だった。

風はまだ吹きやまない。