風の香気にとおい記憶をよびさまされる朝。
どんな都会でどんな現代的な暮らしをしていようが
しょせんヒトは本能にはかなわないと思う。
子どものころ、
白い紙にむかって無心にクレヨンを走らせていたように
純粋になにかに没頭できる時間がすきだ。
手を無心に動かしながら自分の宇宙と語り合う
そんなシンプルな時間を過ごすことが大好きだ。
自分の魂に刻まれた記憶の欠片を形にしようとするのは
やはりヒトの本能なのかもしれない。
さて、気づけば師走で年内の展覧会もすべて片付いた。
今週は春に国立新美術館で開催される展覧会の作品をおさめてしまう。
そうして季節は確実に駆け抜けていくのだ。
人間の手が彫刻家の
人間の耳が音楽家の
人間の唇が沈黙しか語らない瞬間
目に見えなかったものが見えてきて
音さえ目に見えてきて
自然は球体だということに
やっと気づくのさ
田村 隆一「人が星になるまで」より抜粋