大きな背中の46歳が竜投の頂点に立った。
九回2死二塁。盟友・岩瀬が中村を一ゴロに打ち取るのを見届けると、山本昌はベンチでふっと安どの笑みを浮かべた。
杉下茂氏が持つ球団記録の通算211勝を上回る212勝。
プロ29年生が打ち立てた金字塔に、地元名古屋の竜党が歓喜した。
勝利の列の先頭に立ち、ナイン一人一人と丁寧にハイタッチ。花束を抱える吉見、自身の登板時に2度の救援失敗があった浅尾、最後を締めた岩瀬、誰もが笑顔だった。
観衆の大拍手にいざなわれ、本拠地のお立ち台に上がった。
「本当にうれしい。幸せです。杉下さんには毎年キャンプでかわいがってもらってる。杉下さんは10年足らず(で記録達成)。僕はその3倍近くかかってる。比べるのはおかしいけど、数字だけでも超えられて、自分でもすごいなと思う」
“フォークの神様”として一時代を築いた大先輩に敬意を払う一方、引退覚悟のがけっぷちから再びはい上がった自身に対する誇りを口にした。右足首負傷で昨季は登板なし。それでも球団は契約を結んでくれた。
「チームに恩返ししたい気持ちが原動力」。感謝の思いを力強く言い切った。
この日は先発全員右打者のDeNA打線に対し、内角直球と低めへの変化球で凡打の山を築いた。
味わい深い90球に、高木監督は「去年のブランクがある中で本当にすごい。素晴らしいの一語に尽きる」と顔を紅潮させた。
4月19日に実父の巧さんが78歳で死去。「今日は応援してくれてたと思う」。それでも涙はない。次なる目標として、工藤公康(現野球評論家)の持つ通算224勝を挙げた球界最年長左腕。新たなマサ伝説が幕を開けた。