盲腸なんてさっさと切るべき?
消化管などの粘膜面では、病原体の感染に対してIgA抗体が主体となって防御している
虫垂リンパ組織は小腸および大腸に移動してIgA陽性細胞を産生するリンパ組織であることが判明したという。虫垂リンパ組織のIgA細胞が、腸内細菌叢のバランスの維持にきわめて重要な抗体であることをふまえて、今後、腸管免疫系の制御法が開発され、炎症性腸疾患や腸管感染症の治療につながることが期待されるとしている。
また、問題が起こると、有益なバクテリアは虫垂という避難所に後退するため、何の影響も受けずに済むという
よく「盲腸になった」「盲腸を切った」と呼ばれるときの盲腸とは、虫垂のことを指しています。虫垂とは大腸の一部である盲腸の先端に付いている細く小さな器官であり、ここが炎症を起こすと「虫垂炎」と呼ばれる、一般的に「盲腸になった」と呼ばれる状態になります。
これまで虫垂は、長い間人間の体にとって明確な必要性を認められる組織とは考えられていなかった
それどころか盲腸の先端についている虫垂という臓器は、急性虫垂炎を引き起こす厄介な臓器として知られていました
でも、最近の研究で、必ずしも無用ではないということがわかってきています
盲腸にある虫垂は免疫機能を高める重要な器官だった?
長年、医学界では虫垂が不必要なものとされ、また激しい痛みを伴う炎症を起こし、早期の摘出が必要であることのみ注目してきました
右下腹部の盲腸から伸びる小さな虫垂は、長く私たちの体にとって不必要な組織と考えられてきました。しかし大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座の竹田潔教授らの研究により、虫垂のリンパ組織が、粘膜免疫で重要な免疫グロブリン(Ig)Aを産生しており、腸内細菌叢の制御に関与している事をはじめて発見されました。元々虫垂には、リンパ球の集まった場所(虫垂リンパ組織)があり、何らかの免疫学的機能を有している可能性が考えられていました。
しかし虫垂には発達したリンパの組織があって、免疫機能を高める大切な役割を担っていることが明らかになってきました
実験的に虫垂リンパ組織を欠如したマウスを作成したところ、このマウスでは大腸のIgA産生細胞の数が減少し、大腸の腸内細菌叢が変化
腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)とは、腸内の様々な細菌群が互いに生存競争を繰り広げ、お互いに排除したり共生関係を築きつつ、一定のバランスが保たれた均衡状態にある生態系のことを言います。
この研究により、長年ないがしろにされてきた虫垂が、大腸に動員されるIgA陽性細胞の産生を司る場であることがわかりました
免疫に関係する「IgA陽性細胞」とは
免疫グロブリンA(IgA)は、哺乳類および鳥類に存在する免疫グロブリンの一種である
消化管などの粘膜面では、病原体の感染に対してIgA抗体が主体となって防御している
また、IgAは腸内細菌叢のバランスの維持を担う重要な抗体とされている
さらに分泌型IgAは初乳中に含有され、新生児の消化管を細菌・ウイルス感染から守る働きを有している(母子免疫)
虫垂が腸内環境のバランスを保っていた?
虫垂は有益なバクテリアにとって「安全な隠れ家」だった
こうしたバクテリアは免疫系を「訓練し」、危険な病原菌を打ち負かしてくれるため、病気を防ぐ事が出来ます。
また、問題が起こると、有益なバクテリアは虫垂という避難所に後退するため、何の影響も受けずに済むという
さらに虫垂は、胎児期には生命維持に必要なアミノ酸やペプチドホルモンを生み出して、体内環境を保っているという
やっぱり人間の器官に無駄なモノなんて一つも無かった?
体内に侵入した病原体などを攻撃する免疫細胞を作る働きを持つ虫垂
かつて南極観測隊員などは実際に予防のために、虫垂を切除するケースがあったという。さらに宇宙飛行士は宇宙にいく前に切除するという噂もありました。
これまで病院で手術をした際に「どうせいらないものですから、取っちゃいましょう!」と、ついでに盲腸(虫垂)を切除することも多かった
今回の虫垂につきまとう否定的なイメージを覆す発見で、虫垂炎(盲腸)の手術方針など臨床にも影響を与えそうだ
研究チームの竹田潔大阪大教授
「虫垂をむやみに取らない方が良い」
「虫垂をむやみに取らない方が良い」
[ScienceNews2014]人体の不思議 虫垂に意外な役割(2014年6月6日配信)YouTube