
クリント・イーストウッドによる同名の映画の原作。イラク戦争にて伝説的な記録をなしとげた狙撃手、クリス・カイルの自伝である。
「国を守る」「仲間を守る」ために、命をかけて戦う。そのひたむきさには打たれるものはある。しかし、それ故に敵を、彼が“野蛮人”と称する相手を、まるで虫けらのように殺していかなくてはならない。「やらなければ、やられる」、その極限の状況。追い詰められた(と本人の自覚はあるのだろうか?)精神は、人の首がふっとぶ状況を目の当たりにし、笑い飛ばすようにさえなる。退役した彼は、それを「暗黒面に落ちることだ」と叙している。
例えば心拍数や血圧についての記述。彼のそれらは、平穏な日常において異常値を示し、むしろ戦闘状況にある方が落ちついたデータが出たという。「人と戦い、殺さなくてはならない状況」の方が、より安定するという心身の状態。
そして描かれる家族との確執。「神」「家族」「国家」の優先順位をつける妻タヤに対し、「神」「国家」「家族」の順位となるカイル。良き夫、良き父となるを決して厭わなかった彼だが、しかしこの優先順位によってタヤは精神的に追い詰めれらる。自分の大切な人がいつ死んでもおかしくない環境にいる、という状況。大切な人を守るはずの戦いが、大切な人を追い詰めることになる。
しかしカイルに悔いはない。退役後、精神的に病んだ時期を経験するも、決して戦いに従事したことが間違いだった、とは感じていない。そこにあるのはある種の信念だが、しかし戦争が、人を殺さなくてはいけない環境が、当人も家族も負の側面に追い込んでいったことは否めない。
部隊での厳しい訓練や、戦地での細かい状況説明、武器や組織の専門的な説明など、正直読みにくいところはある。しかし、映画に感覚的な「リアルさ」を譲るとしても、当人の細かい心情の流れはこちらが勝る。映画を観た人には手に取ってほしいし、そうでない人にとっても、実際に戦争に従事した人がどのような考え、感覚を持ち日々を過ごすのか(戦地も日常も含めて)、その一例を知るきっかけになる著作である。
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