ハーンを深く聴き込む以前、
間違いなくこのレコードが、
同曲の王道かつ
模範的演奏だと思っていた。

ところが実際はそうでなく、
この当時としては、
かなり先進的な
アプローチであることに気付いた。

良くも悪くも無駄な「間」
だらけの同曲を洗練し、
まるでチャイコフスキーの
ヴァイオリン協奏曲のように
演奏しているのだ。

しかし、
そこはミルステイン。

ミス一つない完璧な
テクニックとタイミングで、
聴き手へ

「これがベートーヴェンの
ヴァイオリン協奏曲です」

と畳みかける説得力は、
ハイフェッツを除く、
ヴァイオリン奏者の中では随一。

そんな、越えようと思えば
越えられたはずの
ハイフェッツのような、
制圧的演奏でない所に、
作曲者への敬意を感じる。

ベートーヴェン  ヴァイオリン協奏曲 Op.61