私と三女は『遺産分割協議書』という言葉を知らなかった。
知らなかったが『遺産』と『司法書士』の文字、そして叔父の名前に良からぬことだと直感した。
母には妹2人と末っ子に9歳年下の弟がいる。この弟がメモに書いてある叔父だ。
※叔父は四年前に癌で他界している。
叔父は10代で反社の世界に足を突っ込み中途半端に逃げ出す一方で三度の結婚、二度の離婚で子どもは全部で5人。親族にも多々迷惑をかけるダメ人間ながら憎めない一面があり世渡り上手なところもあった。
歳が離れた母とは子どもの頃から希薄な関係で私たち家族ともほとんど付き合いはなかったし、優等生気質の母には叔父の生き方を恥だと思っていると言葉の端々に感じていた。
それが、父が亡くなり母が独居になると仕事で近くまで来たからと頻繁に母の家に寄るようになった。『仕事の途中』なので長居はしない。
母が「さっき◯◯(叔父)が来てたのよ。また電車賃がないから貸してくれって一万円持っていったわ。返してもらったことはないけどね。」とよく言っていた。スケジュール帳には叔父の来た日付の欄に叔父の名前と一万円がセットで書かれていた。
私と三女は一度も実家で出くわすことはなかった。
仕事で近くに来て寄るのは母の家だけではなかった。次女の勤務先へ顔を出し休憩時間によく会っていたことが後にわかった。
ある日、母が叔父と市外の駅で会う約束をして行ったが何故か不機嫌で帰ったと言う話をしてきたことがある。
市外の駅は普段は行かないような意外な場所だったので、何故そこに行ったのかを聞いたが母は覚えていない。更に、
「別れ際に小遣いをあげようと思ったら財布に三千円しかなくて三千円が少なくてふて腐っちゃったのかしらね?いつも一万円渡してるから(笑)」
と、母はあまり深刻な感じでもなかった。
でも、実際は笑えないことだった。
つづく