母は下の一本だけ残っているものの、見た目はほぼ総入れ歯だ。
いつから入れ歯なのかわからないが、テレビCMでよく見かける『ポ◯デント』はかなり前から洗面所にあった。
はずしているところも見たことがなく、どう手入れするのかも知らなかった。
アルツハイマーと診断されたとき、母がまだ先生と会話ができるうちに歯医者さんに行っておいた方が良いような気がして私と一緒に行かれるよう予約を取った。
先生には予めアルツハイマーと診断されたことを話し、今のうちに入れ歯の点検と必要があれば調整もしくは新調しておきたいと伝えておいた。
母には市から高齢者の無料の歯科検診の案内がきたから私と同じ日に予約したと言った。
当時はまだ先生の問いかけを理解し返答できたのが幸いだった。診察室と待合室はウェスタンドア一枚なので母が色々な質問に答えながら時々自虐ネタを披露するのを聞いていた。
結果、当時の入れ歯は作ってから10年近く年経過していた為、加齢で痩せた歯茎と上手く噛み合わない部分があるということで型を取り新調することになった。
仕上がった入れ歯を装着し微調整したら、滑舌が良くなった気がした。歯は(入れ歯でも)定期メンテは大切だと思った。
万が一紛失したときの応急のために古い入れ歯は母の目が届かないように洗面所の引き出しの奥にしまっておいた。
認知症が進むにつれ入れ歯もなかなか色々なパターンで問題が起きた。
ある朝、電話で話す母の言葉が良く聞き取れずフガフガ言っているように聞こえた。
実家に様子を確認しに行くとやはりフガフガと言葉が聞き取れない。入れ歯が合っていないのではと聞くと、いつもと変わらないと言い自分の耳から聞く自分の話す言葉に違和感がないと言う。
話しているうちに上の歯が外れたと言い装着し直した。その後も頻繁に歯が外れるので不便だから歯医者で調整してもらおうと言って歯医者に連れて行った。
診察中に先生がウェスタンドアを少し開け私に小声で「今つけてるのは古い入れ歯です」と言った。
母は何の目的で洗面所の引き出しを開けたのかわからないが、隠したはずの古い入れ歯を装着していたのだった。
帰宅して即、入れ歯捜索開始!
ありそうな洗面所は引き出しも含めくまなく探したが見当たらない。自宅の夕飯の支度もある為その日は捜索終了した。