約一年前のこと。

主人と隣の市のホームセンターに向かう車中で母から電話がかかってきた。


「今日約束してたっけ?」


『してないよ、どこにいるの?』


「あのーここは何て言ったらいいのかな、あのーなんて言うのかな・・・ほら、あれ?」


『歩いてるの?家に戻れる?』


「え(笑)大丈夫よーいくらなんでも家はわかりますー(笑)」


『このまま電話を切らないで家に向かって!』


「大丈夫よー帰れるから」



電話が切れた。すぐにかけ直すと母は少し息を切らしながら電話に出た。


「もしもし?」


『今どのへん?電話切らないで家に着くまで話しながら歩いて』


「え?あなた今どこにいるの?」(その前の電話をすっかり忘れている)


『今◯◯で買い物をしたらご飯を買ってお母さんの家に届けに行くから家にいてね。家までまだ遠いの?』


「もうすぐ着くわよ。今△△さんの家(実家の斜め前)の前を通過しまーす!……はい到着しました!」


『あと1時間くらいでお昼と夕飯を届けるから絶対に留守にしないでね!』


「あらわざわざ悪いわね。今日は出かける予定がないからずっと家にいまーす!もしお友達から誘われても断るから大丈夫よ」



気が気ではない状況で必要最低限の物だけを買い、慌てて帰った。


電話の様子からそれほど遠くまで行ったわけではないことはわかったが坂道の途中にある自宅を出て坂道を上ったのか下ったのか…当然母は何も覚えていなかった。


また新たな不安に悩まされると思うと気は重くなった。


GPS付きの靴の購入も考えたが、新しい物を自分の物として認識できないことと、スニーカーしか履かないと言うこだわりがあり躊躇した。


それから間もなく、

「お尻が痛い」「太腿が痛い」と言うようになりあまり歩きたがらなくなり整形外科を受診すると年齢相応の脊柱管狭窄症と診断された。


あまり歩きたがらなくなり、それはそれで新たな心配ではあったが「迷子」になるほど歩けそうにはなかった。安心も油断も大敵なのはわかっていたがホッと一息というのが本音だった。