元々単独行動が苦手な母は一人で出かけることはない人だった。思いつきで一人でどこかに行くということもなかった。


唯一、心配だったサークルも仲間の人たちの協力でなんとか続けられた。


早めに認知症であることを打ち明けた近所の人だけでなく、地域カフェで知り合った人たちにも母は見守ってもらえるようになった。


携帯電話に出ないとき、実家まで歩いていくと大抵は門は閉めたまま玄関先で草むしりをしたり水やりをしていて家にいないことはなかった。

地域カフェに行くときに実家の前を通るという人は母の姿を見かけると声をかけておしゃべりに付き合ってくれていた。


しかし、私の知らない人との付き合いがあることに頭が回っていなかった。


ある日、認知症カフェでランチをしてから実家に母を送り、夕方歯医者に行くのに迎えに行くまで一休みしていてと伝え私は自宅に帰宅した。


歯医者の予約まで3時間ほどあった。


母と別れて小一時間して電話がきた。



「ねぇ、どこで待ち合わせだったっけ?」


『え?家にいてくれれば良いの。迎えに行くから』


「え⁈やだ私出て来ちゃった」


『どこにいるの?!』


「えーと、ここはどこって言えばいいかしら?」


『お店ある?』


「◯◯でしょ、✖️✖️でしょ、あとは…」


『△△の商店街?◇◇銀行ある?』


「あぁそうそう!あっお友達がいた!ちょっとお茶して帰るわね」


『友だちって誰?」


『ふふふ、なーに?名前言わなくちゃいけないの?大丈夫よ、すぐ帰るから(笑)』


「いや、笑い事じゃないから。これから歯医者さんに行く約束でしょ?ちょっとお友達と代わってくれる?」


『(なんか娘が代わってって言ってるんだけどいい?)はい、今代わりまーす』



電話に出た人は困惑した様子で一部始終を説明してくれた。母とその人は時々サークルとは別にスポーツやカラオケを楽しむ友人だという。

その日は私が母を送って帰宅した後に、母をカラオケに誘い待ち合わせをしたという。

しかし、母がなかなか来ないので携帯で連絡を入れ待ち合わせのファストフードの店へ誘導したが話が噛み合わず商店街に探しに出て母を見つけたということだった。やっと会えた母は約束を丸ごと忘れていて娘(私)と電話中だったのだ。


その人に母が認知症であることを伝え、歯医者の予約があるので迎えに行くと言うと母を家の近くまで送ると言ってくれた。


30分とかからず母は帰宅した。

携帯の発信履歴には20回以上と着信履歴が数回全てお友達の名前。混乱ぶりがわかる。


その日の夜、改めて母のお友達にお詫びがてら認知症の件で電話を入れた。

「認知症」と言う言葉に少し驚いていたが、その日の出来事もあり理解してもらえた。


迷惑でなければカラオケもスポーツも誘ってもらいたいが、連絡は私にしてくれるようお願いした。


その後、そのお友達も目の手術をして車の免許を返納したそうで実際に待ち合わせて出かけることがないまま半年に一度くらい母の声が聞きたいと電話をくれているが、母のデイサービスの日数が増えたりコロナ禍も影響して会えないままである。