まだバスを利用できた頃、母から


「◯◯(デパート)にいるからお昼ごはん何か買っていくけど何がいい?」


と、電話がきたので私は崎陽軒のシウマイ弁当を頼み実家で母の帰宅を待った。


待てど暮らせど帰宅せず携帯にも出ない。

まさか迷子になって知らない所へ行ってしまったのか?と不安を募らせていると母が帰宅した。

夕方の4時頃だった。


帰宅した母は私がいることに驚いた。

お弁当どころか買い物らしき荷物は見当たらない。私に電話した記憶もない。


母に何をしに出かけたのか聞くと、それも覚えていない。

母は手がかりを探す為に鞄の中身を出した。


通帳が出てきたので銀行に行ったのでは?と聞いたが、記憶がない。

通帳から紙幣がはみ出していたので確認すると十万円引き出しと記帳されてあり通帳に挟んである紙幣も十万円。

元々ひとりで外出することが殆どない母がバスに乗って行ったのだから何か必要で引き出したのだろうと思ったが記憶がないという。


財布には約三万円入っていたので、十万円は口座に入金しに行こうと翌日入金した。



オレオレ詐欺的なことも考えられる為、三女と相談し、通帳や実印、年金手帳、保険証などを預かることにした。

キャッシュカードは母が持ち、時々通帳記入して様子を見ることになった。

保険証も必要なときに見当たらず市役所に2度再発行手続きに行っていた。


最初、母は抵抗したが最終的に私と母の署名入りの預かり書を書き、銀行や役所にはひとりで行かないということも含め納得してもらった。


相変わらず、財布がないという電話は頻繁にきたが、預かった物がないということはなかった。



その後しばらくは問題なく過ごせていたが、ある日キャッシュカードが使えないと言い出した。

銀行に行くと暗証番号を何回か間違えた為にストップしたということがわかり、再発行手続きをした。


暗証番号を間違えたことは記憶になかったが、銀行の人の質問に「最近忘れっぽくていやになっちゃうんです」と言って再発行手続きの書類にはスラスラと記入できた。


後になって冷やっとしたが、もしあのとき母が書類に必要事項が記入できなかったら口座凍結になってしまったかもしれない。


この出来事でキャッシュカードも預かり、出金には一緒に行くことになった。




〈余談〉


ある日、財布捜索の名人である三女が財布を探しているときに「学資保険」の払い込み書を見つけた。次女の娘の名義だった。

年払いで12〜13万円だったと思う。


三女が何故ここに払い込み書があるのか母に尋ねたがわからないというので三女は次女に電話をした。


「ばあばが自分にできることはやらせてと言うから払ってもらってた」


次女の返事に三女は激怒した。

母が認知症になってから三女はそれまで母が払ってくれていた息子たちの学資保険もスイミングスクールの月謝も母が払うことを忘れてしまったから自分で払っていたという。

次女の娘の学資保険は母が認知症になってから加入していた。

私は呆れるだけだったが、三女の怒りはごもっともだと思った。

今後はお姉ちゃん(私)が母の金銭管理と大事な書類を管理することになったから。これから学資保険の払い込み書の送付先を次女の家に変更し次女が支払うようにと言って電話を切った。



シウマイ弁当を忘れられたあの十万円を引き出しに行った日と払い込み書の支払い期限日のタイミングが近かった為、母は学資保険を払う為に銀行に引き出しに行ったのだろうと思うと合点がいった。