松本家には、客間がありました。

ベッドもあります。小さな机もあります。カーテンも新しく、掃除もされています。来客用のタオルはクローゼットに入っていて、予備の毛布もきちんと畳まれていました。

それなのに、泊まりに来た人はなぜかあまり長くその部屋にいませんでした。

妹は「普通にいい部屋だよ」と言いました。

友人は「全然大丈夫」と言いました。

でも、その言い方がすでに大丈夫ではありませんでした。

ある冬、母が数日泊まりに来たとき、朝早くキッチンに座っているのを見て、妻の由紀は気になりました。

「よく眠れなかった?」

母はやさしく笑って言いました。

「部屋はきれいよ。」

きれい、という言葉が少しだけ胸に残りました。

きれいだけど、休める部屋ではないのかもしれない。

由紀は客間に入り、泊まりに来た人の気持ちで見てみました。バッグを置く場所がない。ベッドの横にスマホを置く棚がない。照明のスイッチが遠い。窓の前に背の高い棚があり、朝の光が入りにくい。

部屋は整っているようで、人の動きには合っていませんでした。

夫は「家具を動かしてみよう」と言いましたが、どこへ動かせばいいのか二人とも分かりません。

そこで、由紀は間取り図作成で客間を描いてみました。ベッド、窓、ドア、クローゼット、棚、机。上から見ると、なぜ落ち着かないのかが少しずつ分かってきました。

ベッドは入口から正面に見えすぎていました。棚は光を遮っていました。机はあるのに、荷物を置く場所としては使いにくい位置でした。

二人は大きな買い物をしませんでした。

ベッドの向きを変え、棚を低いものに替え、窓の近くを少し空けました。使われていなかった椅子を出し、代わりに小さな荷物置きを置きました。ベッド横には小さな台と充電器を用意しました。

次に母が泊まりに来たとき、朝食の時間まで部屋から出てきませんでした。

由紀が少し心配して見に行くと、母はベッドの上で本を読んでいました。

「この部屋、前より落ち着くわね。」

その一言で、由紀はとても安心しました。

間取り図を作ったことで、客間はただ整った部屋から、人を迎える部屋になりました。

誰かが泊まるということは、その人の一晩を預かることです。

きれいな部屋よりも、荷物を置けて、明かりに手が届いて、朝まで安心して眠れる部屋。

そんな小さな配慮が、客間を本当の意味で客間にしてくれるのだと思います。