新撰組魂録勿忘草 ~近藤勇~③
ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語ります。一部脚色がございます事をご了承の上お読み下さい。
大人な表現が含まれます。ご注意願います。
それでもOKの方・・どうぞお進み下さいませ~。
*新撰組血魂録勿忘草 近藤勇~
CV:井上 和彦
近藤さんと約束はしたものの、新撰組は屯所を西本願寺から不動堂村へと移転し
ますます忙しくなっていった。
下女として働くワタシも毎日が、目の回るような忙しさだった。
あの日の朝・・
「お嬢さん居るかな、入るよ。」
「はい。」
「ああ、居たね。」
久しぶりに見た近藤さんの顔だった。
朝の仕事は済んだようだね、とワタシの近くに座った。
「ちょっと頼まれてもらいたい事があるんだ。」
「はい、何でしょう。」
「今日はもう仕事は、しなくて良いから。こっちに専念してくれ。」
「えっ、どういう事ですか。」
「・・・・お嬢さんは今日一日俺と一緒に出掛けて、目一杯楽しむ事。これは局長命令だ。」
ワタシは自分の頬が上気するが分かった。
「本当にっ、本当に今日は一緒に居ても良いんですか。」
ワタシは近藤さんの腕に飛びついた。
「驚いたかい、そうなんだ、ようやく時間が取れてね、やっと巡って来た機会だ、勿論、一緒に出掛けてくれるだろう。」
ワタシは頷いた。
今日は"市"の日ではないが、代わりに近くで縁日をやっているからと
一緒に行こうと近藤さんは言った。
ワタシはいそいそと支度をして、近藤さんと縁日に出掛けた。
「縁日なんて久しぶりだ、江戸に居た頃は良く足を延ばしていたんだがね。京に来てからは、なかなか都合が付かなくて」
「今日は良かったんですか。」
人に会ったりしなければならなかったが、そんなに気になれなくて予定を変えたと
言った。
少し曇った表情が気になった。
「何か・・あったんですか。」
「お嬢さんが気にする事はないさ。少しぱかり・・気が滅入る決断をしただけだ。でも弱音を漏らすのは好きじゃなくてね。それよりお嬢さんには何も聞かずに、癒してもらいたいな。こうして一緒に居てくれれば十分だよ。」
近藤さんは、にこりと微笑んだ。
「しかし凄い賑わいだね。」
これだけ賑わっていると他の隊士に気づかれないと思わないかと
手を握ってくる。
大きな手に握られると安心する。
出店を見て回っていると刀屋を見つけた。
近藤さんの手に力が入る。
入りたそうな近藤さんだったが、思い止まった。
「良いんですよ。寄って行きましょう。」
「せっかくお嬢さんと居るのに、そんな勿体ない事したくないんだよ、今日は君の事だけを考えると決めているんだ。」
ああ・・構い倒すって言ってたっけ。
それから二人でお団子を食べたりして出店を、見て回った。
出店から外れた道に出てから暫く歩くと、御社があった。
お参りしようと二人で境内まで歩く。
人混みから離れ、秋風が気持ち良い。
良い季節だと近藤さんは言う。
「・・だがきっと、この先俺は秋を迎える度に胸を痛める事になるのだろうな・・毎年・・毎年・・ずっと。」
「え・・何かあったんですね、やっぱり」
「お嬢さんは知らなくて良い事だよ、君には出来れば綺麗な物だけを見ていて欲しい。辛い事を知らずに済むのも幸せの形の一つだからね。」
ワタシはそれ以上聞けずにいた。ワタシの事を想ってそうしてくれている
近藤さんの気持ちを尊重したかった。
境内に付くとお参りをする。
「随分と真剣な顔だったね、何を願ったんだい。」
「無病息災です。新撰組全員の。」
「それは嬉しいな、ありがとう。」
「近藤さんは何を。」
「俺か・・そうだね・・俺は・・何も願えなかったよ。」
「何・・も。」
「叶えたい事が沢山あって、どれを願ったら良いのか、分からなかったんだ。」
「・・・・」
「新撰組と言う組織やそれを構成する隊士達、市政の人々やこの国の行く末、それに勿論お嬢さんも、全部大切で優先順位など付けられない。」
「大切なものを全部抱えて守りながら、一歩一歩進めれば・・それで良いのにね。」
淋しそうに微笑む彼を見て、ワタシは何も言えなかった。
この人の背負う物の重さを、改めて知った。
「先陣を切って歩き出した責任を、俺は最後まで持たなくては。」
彼の横顔をただただ、見詰めていた。
「すまない、つまらない話をしたね。」
ワタシは首を横に振った。
「君は気にしなくて良い事だ。」
そろそろ屋台を見に戻ろうと、ワタシ達は歩き出した。
彼の背中に少し、寄り添うように・・。
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