ストライキの影響
こんにちは、田中啓太です。私は2016年の秋からパリに住んでいるわけですが、その間にも黄色いベスト運動などの市民レベルのデモが頻繁に起こることに若干のカルチャーショックを受けながらも、次第にそんなものだと慣れてきました。ですが皆さんご存知のように、フランスでは現在全土で年金改革に反対するゼネラルストライキが先週から続いております。特にパリでは国鉄が大幅に本数を減らしたのみならず、何と市内のメトロは、全自動運転の1号線と14号線以外は完全に止まってしまっています。もう1週間が経ちましたが、パリ市民も疲弊し始めているのが目に見えて分かります。何しろセーヌ川反対側に行くのが不便なこと!私自身は通っているエコールノルマル音楽院が徒歩圏内にあることもあって、ゼネストの影響をほとんど受けていませんが、それでも毎週日曜日に行われているラスパイユのビオマルシェに行く時は、帰りのバスを確認しないと、帰りに大量の野菜を抱えながら1時間くらい歩くハメになりそうですし、この月曜日は学校でマスタークラスがありましたが、そもそも講師が到着できるか30分前までわからなかったくらいです。そして今日はゼネストに入って初めてのレッスンでした。とは言っても本当は毎週月曜日の午前中に学校でやるのですが、ゼネストの影響を受けた僕の先生が学校に来られなかったので、振替でした。オペラのトップなので、オペラバスティーユに午後来てくれと言われていました。先生の予定は毎週確実に決まっているわけではなく、これ自体はいつものことなので、私がバスティーユに行くのは普通のことです。その時は凱旋門から1号線に乗って一本です(私はノルマル徒歩圏であると同時に、凱旋門まで歩いて15分のところに住んでいます)。しかし今回は違います。私自身がゼネストが始まって初めてメトロに乗るものだから、バスティーユに着く時間が保証できない。そこで私はどうしたか。答えはバスティーユまで歩くことにしたのです。所要時間1時間。私は歩くのが速い方なのでこれくらいでしたが、Googleマップでは1時間23分と出ていました。我ながら超爆速足。実は私は、大の散歩好き。1日に40分歩くことはザラです。パリの街は綺麗ですから、目の保養にもなります。そして散歩をする最大の理由は、自分のヴィオラのためです。足腰を鍛えるためにやっているのです。それも背中に勉強用具を詰め込んだリュックや、今回のようにヴィオラを背負って歩くのです。最初期のドラゴンボールで悟空が重い笠を背負いながら修行をしていた、あのノリです。実は日本にいた時から、昔の演奏家と現在の演奏家では(録音と生という違いを考慮しても)音の抜けが全く違うことに薄々気づいてはいたのですが、その原因が当初はよくわからなかったのです。弦楽器であれば弦の材質の違いもあるだろうとそれだけしか考えられなかったのです。現代の奏者の音は何しろでかい音が有り難がられる。私はでかい音は大っ嫌いなので(そうなった経緯もいずれ書きます)、どうやったらホール全体に響く音が出せるか、常に研究していたのです。その一環としてガット弦を張っていた時に、その原因がわかったのです。ガット弦の話はまた別の機会に書きますが、現代の奏者の一般的な奏法ではガット弦は使いこなせないのです。そして意外かもしれませんが、ガット弦を使いこなすのには、強力で柔軟な下半身の力が必要なのです。ガット弦を使いこなせないとわかった私は、定期的な筋トレに加えて、長時間の散歩もルーティーンに加えたのです。おかげでガット弦を上手く使いこなせる体に仕上げることができ、今の楽器ではガット弦を使っていませんが、同じような体の使い方で楽器が弾けるようになりました。実は都会に住んでいる人ほど要注意なのですが、交通機関が発達した地域や時代ほど、本来の楽器の音は出にくい。世界に名だたる大都市パリでさえ、その利便性は東京にははるかに及びません。今だったらメトロやバスで隣町に行くのは常識ですが、昔のアーティストが世界を回っていた時は車がなければ歩くしかなかった。そのことが知らないうちに彼らの足腰を鍛えることになり、遠くに飛ぶ音を作り上げる遠因にもなった。便利さと引き換えに本質の追究が難しくなったのが現代なのです。音一つで人を感動させることが今の時代は非常に難しいのです。今回パリはゼネストに入って交通機関が機能しなくなってしまいました。ですがこの機会を利用して、昔の人が持っていた人間本来の機能、能力を取り戻す事はいいチャンスだと思います。事実、最近知り合ったソルボンヌに留学している日本人も、ゼネストのせいで歩くハメになったけど、頭が冴えると言っていました。散歩は時間を取りますが、それ以外はいい事だらけですよ。特に都会に住んでいる人ほど、積極的に歩く時間を意識的に取るといいと思います。運動の時間と考えてもよし、頭が冴えるから考え事にもいいでしょう。ちなみにオペラでやったレッスンの後は、流石に時間短縮もあってメトロで帰りましたが(帰りは30分)、14本あるメトロのうち全自動の2本しか動いていない分、非常に混雑していました。本数はちゃんと確保されていて、時間もいつも通りだっただけでもとてもありがたかったですね。