作者:新堂冬樹
ページ数:562
初版:2020年11月20日(文庫本)
読了日:2021年1月4日
評価:8点/10点満点
備考:-
どのような話?:
弁護士の木塚は、魔性の女子高生桃香らと共に裏稼業に手を染めていた。満員電車で無実の男に痴漢の罪をなすりつけ、善人ぶって仲裁に入り多額の示談金を搾り取るのだ-
その次なる標的、俳優の松岡秀太には強力なバックがついていた。闇社会との繋がりも囁かれる芸能プロ社長吉原だ。
木塚と吉原、二頭の凶獣が相見えたとき、電車という餌場を争う死闘が始まった。
感想:(ネタバレ含みますので注意)
なかなかの長編小説だったが、p.233で一度目に木塚と吉原が酷い応酬をやりあうところあたりから、時間を忘れて一気に最後まで読み進めてしまった。
痴漢冤罪を企てて実行する所までは、まだ想像の及ぶところだと思う。事実現実世界でもそのような事件は発生している。
但し、問題はその先の応酬の部分。主導権を握るために、また相手を完膚なきまで叩きのめすために、よくこのような発想をし、考えるものだと思わされるようなあの手この手でハメ倒す。
あらすじの話(人気俳優である松岡秀太の痴漢冤罪)は、p.78までで描かれる。
そこから560ページまで、一体全体どう展開されるのか…と思ったが、ただただ驚愕だった。
普通に考えれば、木塚は明らかに悪行に手を染めている。自分の親を失うキッカケになった事件と同じことを手掛けて第2、第3の木塚父を作り出してるゴミ屑野郎だ。
しかし吉原は、これまでの人生で、悪いことはしたかもしれないがそれは復讐や必要に迫られてやったに過ぎず、今回も木塚に仕掛けられたから因果応報を与えんと動いているだけ。
このような構図を見ていると、吉原に何とか完全勝利をして欲しい…とついつい応援をしてしまうのだが。
最後の最後では、まさかの人物が生き延びて日常生活を送っていた。
吉原の元彼女は、非常に重要な役割を担いそうな気がしたのだが、物語の途中で出てこなくなったという読者を裏切る(?)一面もあって良いと思った。
ところで、本作では弁護士批判が随所に垣間見える。
まろは弁護士という職業がこの世で最も嫌いで、尊敬出来ない職業だ。
現実世界では弁護士はどこか聖職のようにあがめられ、尊敬の眼差しで見られているが、単純にやっている仕事と対価とが最も合っていない職業だと思っている。
(あくまで個人の想いです。弁護士の知り合いは沢山いますので、皆さん全員に該当するなど微塵も思っておりません。弁護士の方々がご覧になっておりましたら、大変申し訳ございません。)
会って話をする時も、新聞を読む時も、ニュースを見る時も…「弁護士」と出てくると、いろいろとネガティブな考えが脳裏を過ってしまう。
そんな大嫌いな弁護士を、まろが普段思っていても決して口に出せないことを、作中で堂々と記述してくれているので、とても満たされた気持ちにさせて貰った。このことで個人的に+1点。
本作に出てくる文章には下記のようなものがある。
・p.108:そもそも、弁護士なんて嘘八百並べて犯罪者の罪を軽くする詐欺師だろう?客を焚きつけて高利のサラ金から何年も前の利息を取り戻して上前撥ねるのが、弁護士って職業さ。
・p.158:法廷は真実を証明する場所ではなく、証明されたことが真実になる場。弁護士は、金のためなら悪を守り、善を攻撃する。
・p.438:もう一つ。俺が最低の弁護士じゃなくて、弁護士自体が最低なんだ。そもそもが、金をもらったら殺人の罪でも軽くしようとする仕事だからな。
・p.519:弁護士だから、悪党なんじゃねえか。弁護士なんてよ、金さえもらって依頼を受けりゃ、依頼人が黒でも白にする仕事だからな。無差別通り魔殺人にも弁護士がついて、少しでも刑が軽くなるように、心神喪失がどうの判断能力がどうのってやる。
新堂冬樹さんはとても大好きな作者さんで、よく本を読ませて貰っているが、また本作でも重厚な読了感と、スカッとする気持ちとを与えてくれた。