みなみ会館では3つのうち一番大きな映写室の

最後列だったので、監督の顔もよく見えませんでした。

出町座の3階別室最前列に陣取ったので、

今度はよく見えました。

 

小田さんはいかにも鉱の監督らしく、

上下とも黒のパンツルックで、

さっきまで地下300メートルで抗夫たちと働いていたかのような顔色に、

穏やかな表情ながら眼光に鋭さがありました。
 

さて、短編集のラインアップを出町座のホームページと

アフタートークでうかがったお話をもとに紹介します。
 

①『ひらいてつぼんで』(2012年/13分)
あやとりをしながらバスを待つ少女たち。

停車するたびに乗客を迎え入れながら、

バスが向かった先には松明が灯っていました。

京都花背で行われるお盆の火祭り「松上げ」です。

小田監督が唯一脚本を書いて制作した作品。
 

②『呼応』(2014年/19分)
サラエボの村を丘の上から俯瞰で撮っています。

やがて画面左上の墓地から人々が出てきました。

地元の人に撮影してよいかと尋ねたところ、

ここから先へは来るな、と言われて撮影場所が決まったそうです。

特に面白いものが映っているわけではないのに

なぜかじーっと見てしまいました。
 

③ 『FLASH』(2015年/25分)
サラエボからザグレブまで行く長距離列車の車窓は

外の風景を見せながら車内にあるものを映します。

異国の風景を眺めているうちに

自分の思い出せる限り一番初めの記憶はなんだろう、

という疑問がわいたそうです。
 

④『色彩論 序章』(2017年 6分)
ゲーテの『色彩論』にインスパイされた作品ですが、

まるで何一つ記憶に残っていません。

 

⑤『風の教会』(2018年/12分 )
神戸・六甲にある安藤忠雄設計の

「風の教会」の修復工事を記録したもの。

唯一注文があって撮った作品だそうです。

「風の教会」のホームページから映像を見ることができます。 https://www.kazenokyoukai.com/special-movie
今のところ配信もDVDもない小田作品のなかで

唯一誰でもみられる作品です。

あらためてみるととてもスタイリッシュな映像です。
 

⑥『Night Cruise』(2019年/7分)
船の上から大阪の夜景を撮影したもの。

低い視点からとらえた、ゆらめく水と光。

幻想的です。
 

⑦『カラオケ喫茶ボナ』(2022年/13分)
大阪郊外にあるボナは

小田監督の母上が経営されているお店。

60年前と60年後というテーマで

常連さんにそれぞれ語ってもらったもの。

大阪のおばちゃんたちが登場するので

一番なじみやすそうな世界です。

しかし、60年前は幼少期の今はもう消えた世界へ、

60年後は―haricot rougeにとっても―

「私はもういない」未来へと、

「今ここ」から思惟を飛び立たせます。

渋谷哲也さんのお話も興味深かったのですが、

メモも取っていなかったので、

映像と音響のずれを指摘されていたことくらいしか覚えていません。

もっと早くブログを書けばよかった。

①を見て、小田監督の長編幻想譚をみてみたいと思いました。

ドキュメンタリーの作家だと思っていましたが、

そういった先入観を忘れれば、

映像の揺らぎから

 

 

 

幻想の世界の扉を開く人という印象が残りました。

温かき抗夫の顔色鋭き眼この世とあの世あわひを映す