台湾映画といえば
青春映画の傑作が多いという印象ですが、
また一本愛すべき青春映画が加わりました。
『狼が羊に恋をするとき』
(監督・脚本ホウ・チーラン)です。
<ストーリー>
「予備校に行くね」というメモだけを
残して去って行った恋人を求めて、
タン(クー・チェンドン)は予備校が密集する
南陽街に行く。
ひょんなことから印刷屋で働くことになり、
予備校の試験問題を印刷しては配達する日々が続く。
タンはある日試験問題に
羊のイラストが描かれているのに気がつく。
イラストは予備校アシスタントの
シャオヤン(小羊)が描いたものだった。
急にいなくなった恋人を探す―
村上春樹の小説みたいな出だしですが、
テイストはだいぶ異なります。
ロッカーに置き去りにされた
様々な物を持ち主に返しに行くとか、
行方不明の犬を探しに行くといった、
喪失からの回復というモチーフはありながら、
恋人の探索そのものはあまり描かれません。
本当のヒロインは二重まぶたの可愛いイーインではなく、
子羊シャオヤンだったんですね。
このシャオヤンを見た瞬間、haricot rougeは
志田未来が予備校で働いてる、と思いました。
子羊役のジエン・マンシュウさんも
志田さん同様実力派の女優さんで、
最近は『美食無間』というドラマに出演されているとか。
一方、志田さんは『下山メシ』。
やっぱりなんかつながりが…ないか。
『美食無間』をamazonのprime videoで見てみたくなりました。
haricot rougeは浪人して
近畿予備校という所に通っていましたが、
近くには御所と同志社大学があり、
わりと落ち着いた感じでした。
南陽街は思い切り人口密度が高く、
活気に満ちあふれているというか、
ややこしい入試問題なんか解いてられなそうな
落ち着かない雰囲気を感じました。
ホウ・チーラン監督は19歳の時
毎日のように南陽街に通っていたそうです。
受験生はみな試験が終われば去って行く。
南陽街はキラキラと華やかで、
活気に溢れているように見えるが、
ここに留まりたいと思う人のいない、
乗換駅のような場所なのだ、
と監督はパンフレットに書いています。
監督はそんな街に留まる人々に注目しました。
予備校で残業するスタッフ、
コピー店に住み込みで働く苦学生、
深夜の物売り。
そういった人たちのために、
ホウ青年はよく悲しみで始まり
心温まる結末を迎えるストーリーをよく考えました。
そして何年もたって、
通りに溢れる強烈な悲しみの匂いを打ち砕こうとした、
と南陽街で映画を撮ることにしたと
監督は思いを語っています。
だいたいいつも映画のパンフレットで一番面白いのは、
監督の文章だと思うのですが、
熱い思いのこもった文章を読んでぐっときました。
因みにパンフレットは440円と安かったのですが、
一枚の厚紙を4つ折りにしたものでした。
全部開くと41.8cm×29.7cmのポスターが現れます。
主演の二人と『南方小羊牧場』というタイトル、
下には2012.11.9という数字が。
日本では2013年にSKIPシティ国際Dシネマ映画祭の
コンペティション部門に出品され、
2014年には「カリコレ2014」で上映されたことがあったそうです
―ずっと新作だと思っていました。
映画の中でポケベルが出てくるので、
時代設定はいつ頃だろうかと思いました。
「ポペケベルの歴史」というサイトによると、
日本でサービスが開始されたのは1968年。
意外と古いですね。
86年頃から急速に普及し、
96年のピーク時には契約者が1078万人になったとか。
ちなみに、ホウ監督は1973年生まれなので、
19歳の頃といえば1992年。
台湾のポケベルの歴史もだいたい
同じ経過を辿ったとすると、
やはり監督の予備校生時代が時代背景になってるんでしょう。
haricot rougeの予備校時代には
一頭の小羊もいませんでしたが、
南方小羊牧場でしばしあの頃に戻って
軽い感傷に浸ることができました。