―ベストテン選出について―
この前にやった日本の小説のベストテンと趣旨は同じで順不同。
(日本の小説ベストテンの記事はコチラ)
思い浮かんで本棚を眺めたりしつつ選んだものを並べただけだが
1作家1作品ということに限っている。
選んだ基準は、これまでの自分の人生に色濃く影響を受けたものという点にポイントを置いた。
(尚、あくまでも小説ということなのでエッセイやノンフィクションなどの
ジャンルのものは入れず、また別の機会に譲ろうと思っている)
海外の小説ベスト10(以下順不同。初版&受賞歴)
「愛人(ラマン)」 マルグリット・デュラス/(1984仏)ゴンクール賞
「シェルタリング・スカイ」 ポウル・ボウルズ/(1949米)
「城」 フランツ・カフカ/(1926チェコ)
「異邦人」アルベール・カミュ/(1942仏)
「インド夜想曲」 アントニオ・タブッキ/(1984伊)
「狭き門」 アンドレ・ジッド/(1909仏)
「デミアン」 ヘルマン・ヘッセ/(1919独)
「O嬢の物語」 ポーリーヌ・レアージュ/(1954仏)ドゥー・マゴ賞
(※念のため、Oはオーと読む)
「すばらしい旅人」 イヴ・シモン/(1988仏)フランス書店賞
「マルテの手記」 ライナー・マリア・リルケ/(1910オーストリア)
★選出作品についての理由、その他
全体を見渡してみると、フランス人作家の作品が半数以上を占めているようだが、小説に関しては特にフランス贔屓という訳ではない。
それよりも並べてみてはっきりとするのは全てが20世紀のものばかりで、今世紀に入ってからのものが皆無ということである。
もちろん全く読んでいないという訳ではないが、一度読んだら再び読み返したいと思うようなものが少ないことが原因だろう。
ここに挙げたものが折りにつけ何度か読み返したりまた読みたいという気持ちにさせるものだということを考えれば。
それに加え今世紀に入ってからは日本のものも含め、小説よりもエッセイや随筆などが多くなっていることも理由に挙げられるだろうか。
● 「愛人(ラマン」)マルグリット・デュラスについては過去記事でも取り上げているので興味のある方はコチラをご参考に。
"切なさ"というものが全編に貫かれている美しい詩のような文章。70歳のデュラスが書いたという文章を出来るならフランス語で味わってみたいと思わずにはいられない。
● 「シェルタリング・スカイ」ポウル・ボウルズはB・ベルトルッチ監督作品の映画にもなったが(映画も良かった)、長編であるにも関わらず何度も読み返し、また読み返す度にいろいろ考えたくなる作品の一つである。
シェルタリング・スカイとはここでは、砂漠に踏み入った者たちを庇護する大空という意味になるが、これを読んで私も一時サハラ砂漠に憧れ旅行に出かけたりもした。ボウルズは実は短編集の中にその真髄が最もよく現れている作家であると思う。
● 「城」フランツ・カフカの作品の中でも<変身>や<審判>などと迷うところだが、いつまでも辿り着かない自分がよく見る夢を想起させるところが、変身や審判などよりも自分にとって最も身近な感じがしてこちらにした。
彼がユダヤ人であることとか物語の背後にある隠された意味等は別にしてもただ読むだけで夢の世界へ入り込んでいく気分にさせてくれる。
● 「異邦人」アルペール・カミュを初めて読んだのは高校生の頃だろうか。
手元にある新潮社の文庫本を開くと、もうすっかり忘れたがときどき鉛筆で引かれた線と書き込みがあり、それらから判断するとおそらく読書感想文にでも使ったのだろうか。
当時はサルトルなどと肩を並べ実存主義と言われる存在だとは知らず(カミュ自身は実存主義者であることを否定している)、自分がいったいどんなことを書いたものやら??それでもページの最初の部分の「きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かもしれないが、私にはわからない」に眼をやれば衝撃が走るのはたぶん私だけではないだろう。
● 「インド夜想曲」アントニオ・タブッキは旅について書かれた小説である。失踪した友人を捜すという目的のある旅だが、サスペンス仕立てで物語の中に引き込まれていくうちに…これは小説のカタチを借りた一種の哲学といえるのかもしれない。こういう書き方もあるのかと感心させられ自分もこのような小説を書いてみたくなった。
● 「狭き門」アンドレ・ジッドのこの本こそ、私が自ら海外文学を読み始めるきっかけとなった記念すべき一作目である。
高校一年の時、学校の帰りに寄った本屋の棚で題名に何故か惹かれて手に取ったことを覚えている。
"力を尽して狭き門より入れ"と本の扉に書かれた聖書の言葉の意味も分からずに、女子校だった私はただこの三人の男女の恋模様に自分の姿を重ねつつ憧れた…あの時はわからなかったがアリサという少女は臆病過ぎたと思う。ほとんどの女性はたぶん妹のジュリエットの生き方のほうを選ぶだろうから。
● 「デミアン」ヘルマン・ヘッセはヘッセの作品の中でも特別に印象的な作品だ。つい最近も読み返したばかりである。
青春期特有の想いの全てがここには在るが、同時に大人であっても大人になりきれない全ての人のためにあるような作品といってもよい。
あるいは芸術を愛する芸術に魅入られた魂のために。人は死ぬまできっと本当の自分の姿を捜し続けるしかないのだろう。
● 「O嬢の物語」ポーリーヌ・レアージュは、もしこの本を御存知の方で私が初めての未来が見えない辛い思い(失恋)から立直るヒントを与えてくれたものと言えばどんな表情をするだろうか。
誤解を恐れずに言うなら映画においてはエロティックなシーンも話題になったが、しかしこの物語の本質を見失ってはならない。これは女主人公の悲痛な魂の告白であり究極の愛の物語ともいえるのだから。
ところで失恋から立直るヒントとは、自分を徹底的に反省し見つめ直すという作業に他ならない。1週間それをひたすら文章にし続けた結果、私の手元に残ったのは一つの小説と呼ぶべきものだった。それがなければきっと精神の病へと逃げ込んでいたかもしれない。
● 「すばらしい旅人」イヴ・シモンを最初読んだ後は素直に胸が一杯になり、珍しく涙が込み上げてきた。なんて切ない大人の童話なんだろうと、でもそれはやはり童話ではなく現実にきっと近いものだという気がした。
”芸術家というのは目に見えないものを伝える者のことなのだ”という男性を愛するには覚悟がいるのだろう。空中を飛んでいる天使のような存在のものが彼の無意識に働きかけてくるので、時として現実の子供は彼の邪魔をするものとなる。ユング的にいえばアニマ的存在だ。
● 「マルテの手記」ライナー・マリア・リルケは詩人として有名なリルケの唯一の長編小説である。といっても詩などに比べてという意味合いに過ぎない。
私がこの本を読もうと思ったのは、私が敬愛する森有正氏のエッセイの本に度々その名前が出てくることと、その内容がパリについて書かれたものであるらしいと知ってである。ところが意気揚々と読み始めたもののすぐにページを捲る手が止まり正直何度も投げ出してしまった。その後あるとき再びページを開いて読み始めたら今度はその世界に入りこむことが出来た。リルケにとって孤独で陰鬱なパリを内側からじっと観察することで見えてくるものも、また真実のパリの姿だと思えるようになったからかもしれない。
最後にもしこの中に一つでも自分のベストテンにも入りそう!
というものがあればぜひコメント頂ければと思います。
もちろんそれ以外についてでも…
よろしくお願いします