実家のオヤジから電話があった。
テレビの字幕が大きくて困っている、と言う。
普段老眼で新聞も読めないのだから、字幕が大きいのは良い事じゃないかと言うと、字幕のせいでテレビが見られないと言う。
なんだかよく分からないので実家へ行ってテレビを点けてみたら疑問は氷解した。百聞は一見にしかずというヤツである。
テレビ画面の左下に「アナログ放送終了まであと○日」と、宇宙戦艦ヤマトみたいなテロップがデカデカと表示されている。
さらに、CM中は消え、本放送中に表示される事も判明した。
この大きさのテロップが常時表示されているなら、いろいろと支障も出るだろう。
「ああ、これな、『あと○日』て書いたぁるやろ」
「おお」
「あと○日したらこの字幕消えるから」
「そうか」
「そやから心配せんでもええ」
「なんや、そうなんか、ほなほっといたらええねんな」
「ほっといたらええねん」
とか言っていたら、この80前のジジイよりも多少は世間のことや機械に詳しいオカンが割って入ってきた。
「なに言うてんの、テレビ映らへんようになんねやろ」
「いや、映るで」
「映らへんようになるんやろ、テレビでずっとそない言うてるやんか」
「テレビ番組は映らんやろけど、砂嵐はずっと映るやろ、そやからあの字幕も消えるし」
「アホなことwなんとかして」
「なんとかて、買い替えるしかあれへんで」
「ほな買うてきて」
というわけでまず、ミナミの大手家電量販店へ行ってみた。
ふむ、結構安いな。
俺のテレビは3年ほど前に故障したので買い替えたのだが、37インチのテレビに20万以上払った憶えがある。
それに比べると俺のテレビと同等以上の性能のモデルが10万円以下で買える。
技術の進歩は素晴らしく、また恐ろしい。
どうせまたすぐに陳腐化するのだけれど。
で、適当なモデルを見つけたので店員を探したのだが、見あたらない。
見あたらない、というか、俺の周りにいないのだ。
そらまあ、俺みたいなビンボ臭い格好してるやつよりは、パリッとしたふうしてるジイサンの相手した方が利益率の高いモデルを売りつけられるもんなあ、とか思いながらレジに行って店員は居ないのか訊いてみた。
すると、テレビの画面のサイズによって分けられたコーナーがあり、各コーナーにいる店員が持っているノートに名前を書け、と言う。
え、まさか、ファミレスの順番待ちっぽい事せんならんの、と訊いてみると、まさにそのとおりで、俺の前に何人待っているのか訊くと15人だと言う。
ふむ、15人か。
ひとりあたり10分として2時間半待ち・・・
いやいや、金持ちをその気にさせて、ひとつでも上のグレードのモデルを売るためにあれやこれや言うに違いないだろうからひとりあたり2~30分がとこか・・・
あかん、待ってられん。
明日開店と同時に来た方がマシやな。
それに俺が買おうとしているクラスのテレビは、全て納期が盆過ぎになっている。
で、その店を諦めて日本橋方面へ。
ここでも大手家電量販店に入ってみた。
納期を確認すると、ほとんどのモデルが盆過ぎ。
あかんな、そらそやわな、対応が遅すぎるわ、もっと疾う(とう)から地デジにしとかな、そら駆け込みで買いに走るやつがめっちゃ多いに決まったぁるがな、盆過ぎまでテレビ我慢してもらうしかないな、そもそも戦時中はテレビなんか無かったしな、ラジオで我慢してもらおか、8月15日には微妙なノスタルジーに浸ってもらうのも一興やろ
などとくだらない事を考えながらウロついていると、在庫の箱が4つある手頃なモデルがあった。
お、これは買いやろ、これ買うとかな多分盆過ぎまでテレビ無しやで、と思い、店員を探した。
すると、やはり順番待ちの記帳をしてくれ、と言われ、俺の前に何人待っているのか訊ねると、すぐに対応出来ると言う。
おおお、さすがやな、にいちゃん、ほなあのテレビ持って帰るわ。
表示価格よりも2千円安く買って実家へ持って行ったのだが、実家には誰も居なかった。
なんじゃそれ、とか思いながらひとりで黙々とテレビを設置し、キチンと全てのチャンネルが映る事を確認し、実家を後にした。
少しはオヤジとオカンの喜ぶ顔が見られると思っていたのだが、大いなる肩すかしを食らって若干拗ねていると、一時間ほどして電話が掛かってきた。
「おおきに」
それだけかい。
しかし地デジという存在のメリットがよく分からない。
俺は前述したように故障による買い替えで、しかたなく地デジ対応のテレビを買ったのだが、これ、必要な措置なのか?
電波の周波数帯の不足がどうのこうの、有効利用がどうのこうのと言っているが、本当に必要なのだろうか。
俺にはよく分からんから、まあこの問題は置いておくが、地デジにする事で大きな問題が生ずる事が判明した。
アナログとデジタル、二台のテレビで同時に同じチャンネルを見ると、両者の間にタイムラグがある。
もちろんアナログの方が少し早い。
1秒ぐらいかな?
ウチのテレビはもう3世代ぐらい前のモデルだからかも知れないが、最新モデルでもアナログには勝てないだろう。
平野がカキーンとボールを打ってホームからファーストに走る、アナログならファーストベース上でヘッドスライディングしているのに、デジタルではまだ2~3メートルベースの手前でジャンプしている。
デジタルテレビは受信した信号を演算処理して映像化しているせいなのだが、この演算処理にかかる時間が、絶対にゼロにはならない。
アナログは、とにかく届いた電波信号を表示しているだけなので圧倒的に早い。
1秒違ったらどうなるのか、というと、たとえば緊急地震速報の発令を知るのが1秒遅れる、という事だ。
1秒違えば生死が分かれる事だってある、と俺は思っている。
そこらへん、地デジ化を推し進めた人達はどう思い、どう備えているのか、ちょっと訊いてみたい気がする。
何にしても実家の地デジ化が間に合った。
めでたしめでたし。
どっとはらい。


