新潟県、特に魚沼地方は国内でも最良質のコシヒカリが栽培されていることで有名な地域です。「魚沼産コシヒカリ」というブランドは他所の地域の米を圧倒し、取引市場でも飛び抜けた高値がついています。
しかしこの新潟コシヒカリ、様々な要因で、危機に陥っています。もちろん、今のままの方向でこのまま行くとは考えにくいのですが、もしもこのままならば3年後くらいには相当やばいかもしれません。
まずなんといっても、去年の地震です。小千谷村が一気に有名になりましたが、あの辺りのまさに魚沼地域の田んぼは壊滅的な打撃を受け、復旧もろくに進んでいないのが現状です。土木工事業者は田んぼ以外の場所でもフル回転で、全地域の土地整備などとてもおぼついていません。
それと、そもそもブルドーザーなどの重機で田んぼの整備をするというのはとてもじゃないけど良い方法とは言えません。自然災害以外でも、細かい田んぼをまとめて大きくするという区画整理のときは重機で行いますが、これをやられるとその田んぼは底なし沼のように深くなり、まともな農業機械では泥にはまってしまって身動き取れないような、そんなひどい田んぼに成り下がります。
また、土地そのものへのダメージももちろんですが、もう一つひどいことに、本年度から新潟県は地域改変や統合などによって、魚沼地域自体を広げる措置を取りました。
これによって、新潟県は「魚沼産米」の量に関して例年並みを確保できると発表しましたが、要するに他所の米を持ってきて「魚沼産」とラベルを張り替えただけです。魚沼米の水増しです。言葉遊びと似たようなもので、いくら量は確保できても肝心の品質そのものには疑問符を生じさせるような施策ではないでしょうか。
そしてもう一つ、新潟産米がやばいという要因があります。それは今年から本格的に生産が始まった、BLコシヒカリというコメ品種のためです。
山間部の稲作に関して、代表的な害病に「いもち病」というものがあります。このいもち病に対しては普通は予防のためにそれ専用の農薬を使うのですが、BLコシヒカリというものはそもそも品種特性からして、いもち病にかかりにくい因子を組み込んだものです。そして米そのものの品質的にはコシヒカリと同等というのが売りです。
新潟県は今年から、コシヒカリに関しては全量このBLコシヒカリに切り替えるという方針を打ち出し、実際に作付けされたものはそのコシヒカリのうち80%がBLになり、従来型のコシヒカリは大幅に減少したそうです。
ただ問題は、このBLコシヒカリ、味は従来のコシヒカリと変わらないというのが県や品種開発者の言い分だったのですが、販売業者などが独自に調べてみた結果、そのご飯の味が従来とはまったく違い、要するにコシヒカリに比べてBLコシヒカリは不味いのだそうです。コシヒカリというよりむしろ、あきたこまちのような味がするのだそうです。
全量BLに切り替えるというのは実際にはどういうことかというとこれは恐ろしいことでして、収穫後の検査の際、BLコシヒカリこそを「コシヒカリ」と認定して、従来のコシヒカリは「コシヒカリ」として認めないのです。従来のコシヒカリを作って検査に出すとどうなるかというと、BLではないと認定されたらこれは単なる「国産米」とだけ表記されて、コシヒカリであるという表示はできません。第3者が見たらまったく内容がわからない米となり、取引価格ももちろんとても安くなります。
農家自身が自分で販売するためのルートを持っているならばそれでも問題はないかもしれませんが、JAに収める場合はこれは大問題でして、JAルートしか持っていない農家は嫌々ながらもBLコシヒカリを作らざるを得ないのです。せっかくコシヒカリを作っても「これはBLじゃないから」という理由で買い叩かれたら馬鹿馬鹿しいですから。
知らない人にとってはこの制度、「なんだそれ??」と思うようなものでしょう。私自身ももちろん、はじめてみた時はびっくりしました。BLコシはBLコシとして売ればいいのに、なぜ「コシヒカリ」に統一する(しかも従来ものはコシヒカリではないとする)のか意味がわかりません。
いくら新潟産・魚沼産でも、美味しくなくなったのならば需要は減ります。特に新潟産米の高価格を支える「ブランドイメージ」は例えば、東京の一流料亭や寿司屋で魚沼産コシヒカリがよく使われるという話にも支えられているわけですが、それらの料理人たちはもちろん味にはうるさいわけですから、品質が下がった新潟米を使い続けるとは思えません。そういう感じで「ブランド力」が下がれば価格も落ちてしまうでしょうし、一旦落ちたブランドイメージ、価格は数年ではとてもじゃないけど元には戻りません。
そもそもいもち病は山間部に特有といってもいい病気なのに、平野部の米も全部一緒くたにBLに切り替えてしまったところに新潟県の姿勢の妙な部分が見えるのですが、困ったことに従来コシヒカリとBLコシヒカリは外観などはまったく同じなために通り一般の検査を受けてもこれが果たして従来型なのかBLなのか判定ができないようです。検査ができないからいっそのこと全部BLにしてしまえ、というのが言い分かもしれませんが余りにもやんちゃすぎます。
現在、米の販売・流通業者にも今年度産の新潟コシを扱うのは躊躇してしまう、といったところがちらほら現れているそうです。もしかしたら、日本屈指の高品質コシヒカリ・新潟魚沼米は去年度を以って最後、という話にもなりかねません。新潟県の来年以降の対応には要注目です。
koume
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