去る7月21日、横浜で、ネット上のお友達であるぶたやまさんhttp://butayama3.hatenablog.com/に招いていただき、横浜で農薬についてのお話をしてきました。
 内容は普通の消費者向けにということで、農薬の定義みたいな基本の話から残留農薬規制についてと、かなり堅い話をしたのですが、ぶたやまさんのブログに写真が上がっているように大量の食べ物に囲まれて、しかも和室で座り込んでというたいへんだらっとした(良い意味)雰囲気で行われたため、全体的にはそれほど硬くならずに楽しく話ができました。

 もっとも楽しくできたとはいえ、自分は決してしゃべるのが本職ではなく、しかもけっこうテンパりやすく(おしゃべりがどんどん加速していき果てには猛スピードでしゃべるようになるのですぐわかる)、それなのに原稿も用意しないので、内容が上手に伝えられたのかは自分なりに疑問があります。
 まあ集まった方々が、自分よりもよっぽどプロだといえる猛者ばっかりだったので(本当に本職の人もいるもの)、フォローもしていただきつつの流れだったのでまったくダメだったわけではないと思いますが(というかあの猛者たちはいったい何しに来たんだ・・・そうかご飯目当てか・・・まあいいか)。

 さてそんなわけで、今更ですが、あの時どんなことを話したのか、またはあの時本当はどんなことを話したかったのか、というのをまとめてみようかと思います。
 で一番初めになんですが、なぜ農薬のお話、それも「農薬って何?」なんて基礎のところからやるのか、という理由なんですけど。

 私はブログやツイッターなどでよく残留農薬の安全性について述べ、へんな農薬批判に突っ込みをしたりしているので、いわゆる農薬擁護の立場というか、最近のあるブクマでは農薬村とかいうところの住人だと思っている人もいるようですが、ちゃんとした農薬批判が行われるならそれは全然悪いことだと思いません。
 私が農薬批判を批判するのは、その農薬批判の内容が間違っているからです。私は「農薬批判をするな」ではなく、「正しい農薬批判をしろ」と言っているのだとしてもいいです。

 ぶっちゃけ私がちゃんと農薬批判をするならば、普通にその手の検索ワードで見つかる農薬批判などよりはるかにレベルの高い農薬批判ができると思います。個人的には、もう使用禁止したり別のものを使ったりしたほうがいいと思うような農薬も実際にいくつかあります。
 正しい農薬批判は、ちゃんとメーカーなり行政なりに届いた場合、その批判を通して農薬そのものや農薬規制が更新され、農薬全体の安全性が向上する作用があります。それは私たち農家にとって非常に大きなメリットになります。もちろん消費者の方々にも利益になるでしょう。そしてそういう正しい農薬批判は日々現場で実際に農薬を使用する農家や扱う業者たちが情報交換しながら行われ、メーカーなどに届き分析や改良などが行われ新製品ができ・・・というサイクルがすでに動いています。そういうのは農薬に限らずほとんどすべての商品でよくある形ですね。

 ところがダメな農薬批判と言うのはこういう流れに乗っていません。たいていが現実の農薬そのものや農薬規制を無視して、架空の「ものすごい毒農薬」みたいなものを妄想して、架空の被害を作り、それを批判しています。
 最近見た例で言えばネオニコチノイド系農薬について「人の脳神経にも悪影響を及ぼす」と言い出す人がいたり(そいつが言っているだけ)、残留農薬基準値の関係でよくある話で「健康な大人が対象の基準だから(子供や体の弱い人には)意味ないだろう」と言われたり、ある農薬被害の話を聞いていたらとても実在の農薬の話だと思えなかったので「あなたが言うその農薬の性質はいったいどこから出てきた話ですか?」と問うと「過去の自分の症状から類推して、こういう性質を持っていると思った」と言われて仰天したこともあります。
 ほかにも「農薬の猛烈な発がん性」や「トキの絶滅は農薬のせい」などなどと昔から農薬についての「デマ」はよくあります。で、デマはいくら流れても農薬あるいは食品の安全性の向上にまったく役立ちません。架空の農薬など規制しようがないし、架空の農薬被害にも対処しようがないので当たり前です。

 「農薬って何?」という定義の話から始めたのも、すでにその段階から大いなる誤解が蔓延っていると思うからで、具体的に上げると先日話題になった「奇跡のりんご」ですが、いわゆる登録農薬さえ使わなければそれ以外の物質(たとえば酢)をいくら使っても無農薬栽培だろうと思っている人がたくさんいるからあの話は成り立っているのです。実際には農薬の定義はそうではないので、誤解が生じるわけです。

 では正しい農薬の定義って何じゃ、ということで次回に続きます。