一空袋の件から見る専門家の常識と非常識

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 古い話ですが、福島のホームセンターで他県産の使用済み米袋が売られてる!これは産地擬装用だ!という話題がtwitterに上ったことがありました。


産地偽装のために、福島県で他県産の米袋が売られている? - Togetter
http://togetter.com/li/184915


 元ネタは週刊ダイヤモンドの記事で、福島のホームセンターでそういったものが販売されているという記事と写真が載ったそうです。そこでは「もしこれが産地偽装に使われたら大変だ」というようなことは書かれていたそうですが、産地偽装だ!と大声で告発するようなニュアンスではなかったようです。
 一空袋(いちあきぶくろ)という名称や、以前から雑袋として安価で販売されていた、ということも書かれたし、扱いも小さいので、まあそういう記事自体を紹介するのは(誰得ダヨとは思いますが)かまわないでしょう。


 で、これを産地偽装の証拠だと決め付けた人がいて、拡散され、少し盛り上がったわけです。いつものデマゴーグですけど、今でも野呂美加氏はこのネタを話してるそうで、あきれます。


 米袋には(以前からブログでも書いているような)検査を受けるための定型の袋とそうでない袋があるんですが、特に検査用袋は非常に丈夫で容量もあり、色々なものを入れる雑袋として重宝します。米糠やくず米、割れ米、色選米などを入れて保管したり、単純に燃えるゴミが入ったりします。
 どれくらい丈夫かというと、30キロしっかり詰めて、放り投げて床に落としても破れる心配をしなくていいくらいです。ただの紙袋なら裂けます。


 うちの場合は米を自家販売している関係でこの空き袋が大量に出るのですが、そのまま捨てることはほとんどありません。ホームセンターで買ったことはありませんが、売っているのは以前から知っています。普通のことで、農家なら大体知ってます。そもそも「一空袋」という固有の名称がある時点で、それなりに普及しているものだと判るところです。


 それでもこれを利用して偽装する人が、特に福島で出るかもしれないだろ、と考えるのは一応わかりますが、特に農家がこの一空袋を利用して産地偽装するのは不可能です。それは実物を見れば一目瞭然です。


農家こうめのワイン-一空袋


 写真は実際の一空袋の表示欄で、法律で必ずこう表記しなさいと決まっているのですが、産地・年産が表示されていると同時にこの米を作った農家の氏名(黒塗りしてますが検査請求者の欄)と住所も書かれているのです。他所の農家が袋を買って詰め替えて売ろうとしても、「何で他人の米を持って来るんや」となります。
 この欄をまるまる偽造して自分の名前を入れるとか、袋自体を作った方が早そうなくらい難しいと思いますが、仮に出来たとしても結局はその農家が他県で作ったという不自然な米になってしまいます。

 もう一つ言うと、一空袋は同じ袋(同じ生産地・生産者の同じ品種の米に使われた袋)ばかり纏めて売られるわけではなく、雑多な袋の集まりなので、詰め替えて売ろうとすると1袋ごとに産地も生産者も違うシロモノを持っていくことになります。あほですね。


 結局、農家が産地偽装しようとしても、売るのがその農家本人なので他県産と偽るなんて出来るわけ無いんです。こんなことを言うのもなんですが、実際にやるなら小売の段階で小分けするので、その時にやる方が遥かに簡単だし、もっと言えば安ければ安いほどいいと言う世界に流せば産地など全く気にしない所もあります。激安飲食店とかね。



 さて前回のエントリもそうでしたが、こういう話は関係者なら誰でもごく普通に知っていることです。しかしそれは、なぜ普通の人はみんな知らないんだ?とか部外者はダメだなあとか、そういう事を言っているわけではありません。
 専門家にとってごく常識的なことが、非専門家にとっては全くの非常識だという事例は山ほどあり、むしろほとんど全てがそうであると言ってもいいかもしれません。

 なので、この一空袋の事例でも、「もしかしたら偽装の原因になるかも?」と疑問を持つこと自体は自然にあるだろうし、しょうがないと思います。もっとも「これは確実に偽装だ!」とするのはおかしいでしょうが。


 ちょっと調べればわかるはずとか、考えればわかりそうとか、そういう事も言いたいとはいえ、でもやはり違うだろうなと思います。どんな分野であっても、専門家とそうでない人が持っている背景や前提には大きな違いがあり、調べるとか考えるといった行為には限界があります。
 そして問題なのは、その背景や前提の大きさ・限界がわからないことで、専門家ではない人にそれがわからないのは当然としても、専門家のほうでもたいていはわからないのです。わかると思っている人は多いのですが。
 非専門家はわからないことについて何を質問すればいいかわからない、専門家は非専門家がいったい何を知らないのか、何を教えればいいのかわからないというわけで。


 個人的にはそういう部分を埋めようと思って、同業者なら「そんなの誰でも知ってるじゃん」というような事を積極的に書いてみたりとか、医療問題サイトもそうなんですが、それは決して他人を馬鹿にしてるわけではないんですよね。自分で言うのもなんですが、大事なことだと考えています。


 2ちゃんねるの「○○(←職業や状態)だけど質問ある?」というスレッドまとめがとても好きで見つけたらよく読むんですが(どんな職業のでも)、そういうのに興味あります。