近頃、農薬批判批判を書くたびに、実際のとこ世間一般では農薬の害なんてそんなに気にされて無いよねー一部の極端な人たちが声高に言ってるだけだよねーそんなもん批判するなんて藁人形っぽくね?とか思うことがあるのですが、別に啓蒙とかあんまり関係なく面白がって書いてるだけですので気にしない方向で。
最近、やる夫シリーズ ってのをよく読んでいまして、面白いものがいろいろあるんですが(特に、やる夫がゴリアテの若き英雄になるようです が好きです)、中にやる夫で学ぶ無農薬野菜の危険性 というのがありました。
やる夫シリーズでと言うのは変わっていますが、内容自体は割りと典型的なものでした。文句を言っているのではありません。農薬批判批判で特徴的なのは、どれを見ても同じようなことが書いてあることですが、その理由は農薬批判の方がいっつも同じことばかり言っているからです。つまり大雑把に言えば、残留農薬の実際の摂取量を無視して、in Vitroでの実験結果を拡大解釈してそのまま消費者に当てはめてしまうと言う手法で、もっとも典型的には「発ガン性がある農薬」という表現です。私が知る限りですが、農薬批判というのはほぼパターン化されていて、毛並みの違うのがあるとすればせいぜい「農薬は田んぼの水のpHを2の強酸性にするから稲に悪い影響を与えるが、無農薬ならpH9の弱アルカリ性にするからいい米になる」とかいう突拍子も無いものくらいです。
ところでこの「やる夫で学ぶ無農薬野菜の危険性」ですが、中でポストハーベスト農薬について言及した部分がありました。内容はどうもwikipediaでのポストハーベスト農薬についての項目
を参考にしたように見受けられました。
いや、それが悪いというわけではなくて、むしろ試しにグーグル先生でポストハーベスト農薬を検索してみて
驚いたんですが、ウィキペディアの項目以外にはほとんどロクな検索結果が出てきません。現在2番目に出てくるいまさら聞けない勉強室&ワード集・ポストハーベスト農薬とは
など、今さら聞けないと言うよりむしろこんなヤツに聞いてはいけないといった感じの内容で、ページ最後に載っている参考文献の中に小若順一の名前を見つけて予定調和的なガックリを感じることまで出来てしまいます。
前フリがやたら長くなりましたが、とりあえず代表的なポストハーベスト農薬であるオルトフェニルフェノールのデータ
横浜市衛生研究所 食品添加物データシート:オルトフェニルフェノール
http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/food_inf/data/additive_back/boukabi_02.html
用 途 かんきつ類の防かびに使用されます。
特性・効果 強い防かび効果があり、かんきつ類の表皮に散布または塗布などすることにより使用されます。
使用基準 かんきつ類:0.010g/kg以下(オルトフェニルフェノールとしての残存量)
安全性 ADI:0~0.2 mg/kg/day(条件付で、0.2-1.0mg/kg/day)
毒 性 急性:ラット 経口 LD50 2.7~3.0g/kg
こちらではもっと詳しく見ることが出来ます。
神奈川県環境科学センター 化学物質データベース(kis-net)
http://www.k-erc.pref.kanagawa.jp/kisnet/menu.asp
(オルトフェニルフェノールのCAS番号は90-43-7)
LD50(半数致死量)だけを見ると2.7g/kgもあり、かの有名なメタミドホスなどと比べるとけっこう安全じゃんとか思えてしまいます(メタミドホスのLD50は20mg/kg、ADIは0.004mg/kg/day)。ADIも0.2mg/kg/dayで、農薬としては普通です。
ただしこれは、普通の農薬ではなくポストハーベスト農薬であると言う点で数多くの批判があります。
まずそもそも日本では、ポストハーベスト農薬は農薬ではなく食品添加物扱いです。なので農薬取締法の対象外で、規制されてないも同然なのだと言う批判があります。
日本でポストハーベスト農薬が農薬扱いされていないことが正当なのかどうかは置いておいて、なぜ現にこんないびつなことになってしまっているのかと言うと、それは法律上の扱いの問題です。日本では、農薬とは農作物に使うものとして決められています。
農薬取締法 第1条の2
この法律において「農薬」とは、農作物(樹木及び農林産物を含む。以下「農作物等」という。)を害する薗、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害虫」と総称する。)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。
これがなぜ問題かというと、ポストハーベスト農薬はポスト・ハーベスト、つまり収穫後に使用するものであり、しかも法律上、農産物は収穫したら食品となる・・・つまり農産物ではなくなるので、収穫後の作物に農薬を使用すると言う言葉自体がすでに、法律上は不可能な言葉になってしまっているのです。
そういうわけで、ポストハーベスト農薬は農薬でなく、当然農薬取締法の対象外となっているのです。
しかし、だから規制されていないと考えるのは大間違いです。何しろ、そもそも農薬取締法は農薬批判者が大好きな残留農薬を取り締まる法律ではないのです。
農薬取締法 第1条
この法律は、農薬について登録の制度を設け、販売及び使用の規制等を行なうことにより、農薬の品質の適正化とその安全かつ適正な使用の確保を図り、もつて農業生産の安定と国民の健康の保護に資するとともに、国民の生活環境の保全に寄与することを目的とする。
農薬取締法とは農薬登録を通じて農薬の品質・販売及び使用を取り締まる法律であり、残留農薬に関しては(ポストハーベスト以外の)農薬ですら管轄外です。で、それを取り締まってる法律が食品衛生法です。普通の農薬による残留農薬もこの食品衛生法で規制しており、もちろんポストハーベスト農薬だってとっくの昔からリストに入っています。
要するに、規制対象外どころか、普通の農薬と同じようにちゃんと規制されているのです。こんなことは農薬関連の法制度の初歩です。
次に、ポストハーベスト農薬がもっとも批判されているのは、残留性の高さです。収穫前に散布する農薬より、収穫後に散布する農薬の方が残留しやすいだろうと考えることは自然で、間違ってはいないことです。余談ですが、作物に残留するはずが無いと思える種子消毒剤の使用回数が1回に決められているのはどこのバカが決めたんだろうかと思います。
が、間違っていないと言えるのは同じ農薬を同じ作物に使用した場合です。それなら、使用時期の違いによって残留性が変わるのは当然のことであり、それを基にして「収穫30日前まで」などと使用時期を決められた農薬もごく普通に存在します。
本当に重要なのは脳内で考えた「残留しやすいか」ではなく、実際に残留しているかです。各都道府県の食品衛生検査所で公開されているOPPなどの残留実態調査を見ても、基準値以上に残留していた事例など見つけることはできません。「よく検出される」と言う批判が出ることもありますがこれも欺瞞で、「検出されること」と「基準値以上の残留農薬が検出される」事は違います。検出するだけなら、すでに使用が禁止されて30年経ったDDTですら検出されることはあります。もちろんごくわずかですが。
ある意味、「日本はその気になったら今すぐ核兵器を作る技術も材料も持ってる!だから危ない!」と言っているようなものです。そこにはじゃあ実際作るの?持ってるの?と言う実態としての話が抜け落ちているのです。実態として全然残留していないポストハーベスト農薬に対して、残留しやすいから危険だ!と煽るのは滑稽です。
そしてもちろんポストハーベスト農薬は、それ自体が持っているリスクを上回るメリットがあるから使われているのです。主に防カビです。マンガもやしもんにはターキーXの事例が載っていましたが、ほかにも例えばアメリカの子供に発症するガンの多くはピーナツバターに残留したアフラトキシンB1(地上最強とされる発ガン性をもったカビ毒)が原因と言われています。ポストハーベスト農薬は確かに食べ物に近い状態で使用するためにハイリスクをはらんでいますが、その分ハイリターンでもあります。
・・・というような、過去にもほぼ同じことを書いた焼き直しエントリでした。