先日、減反制度を見直しして稲の作付面積を60万ヘクタール増やせば米は半値になるとの試算を政府が出したとのニュースを読みました。
減反廃止ならコメ価格半値に 見直しで試算、農政改革チーム
http://www.47news.jp/CN/200904/CN2009042201000866.html
政府の農政改革特命チームは22日、コメの生産調整(減反)見直しの試算を公表し、減反を廃止すればコメの市場価格が一時的に現在の半値まで下落するとの見通しを示した。減反制度見直しに向けて、廃止や緩和、強化した場合の計5つのケースについて、生産量や米価への影響を調べた。
麻生太郎首相はコメ政策に関し「選択肢」を示すよう指示しており、シミュレーションを基に今夏、基本的な見直し方向を決める方針。今回は具体的な制度設計には踏み込まなかったが、現実的な選択肢とみられる緩和のケースを中心に議論が進みそうだ。各ケースとも2008年産の主食用コメの作付面積約160万ヘクタールを前提に計算した。
最も極端なケースの廃止では、作付面積が60万ヘクタール増加すると想定し、市場価格が1年目で現在の約半値の7506円(60キロ)まで急落、10年目でも9721円までしか戻らないと予測している。米穀取引業者によると、現在のコメ価格は60キロ当たり1万5000円程度と、07年産米の年平均とほぼ同じ水準で売買されるケースが多いという。
一方、緩和のケースでは、減反実施農家への助成を手厚くした場合と、抑制的にした場合の2通りを提示。手厚くした場合、作付けは10万ヘクタール増え、価格は1年目で1万3804円、10年目で1万3506円。抑制した場合は30万ヘクタール増で、1年目1万648円、10年目1万1768円と予想した。
この手のニュースではいつも必ず、ある視点が決定的に欠けているのですが、つまり仮に耕作面積を60万ヘクタールも増やしても(約1.4倍です)、それをいったい誰が作るというんでしょうか。
100ヘクタール作る超大規模専業農家(ちなみに米専業なうちの耕作面積は14ヘクタールくらいです)が突然6000戸も現れれば解決ですが、財務省の玄関からいきなり1000兆円入りのボストンバッグが発見されれば財政赤字解消だというのと同じくらい無意味な妄想です。しかも以前のエントリで触れたように、元減反地60万ヘクタールは相当に条件が悪い農地がかなり含まれているはずです。
別に農業問題に限らず、医療問題でも教育問題でも何でも同じですが、ハコモノとか制度を作ればそれ以外の条件は全て理想的に解決するはずだとの大馬鹿な考えが多すぎます。政治家とか役人たちと言うのは正気で仕事をしているのでしょうか。各都道府県ごとに基幹となる大規模医療センターを作れば医療問題は解決、するわけなんかないでしょうが。医師や農民はどっかからわいて出てくるものじゃありません。
さてでは農業に新しい人を入れる件ですが、前回は、50代や60代くらいの人を入れてもしょうがないんじゃないかと書きました。出来れば10代や20代、ようは高卒や大卒の人に農業を選んでもらうのが一番いいんですが、まあそんな理想は誰でも同じく思うでしょう。しかし現実的には若い人間にとって、特に家業が農業ではない人にとって就農など完全に圏外です。
なぜそんなことになるかという理由ですが、だいたい若者にとって農業と言う仕事には魅力が無いでしょう。
そもそも百姓という言葉が一時期は差別用語同然であったように(今でもそのきらいはなくは無い)、農業は賎業とのイメージが強いです。適当にぐぐってて、こういう文章を見つけたときは怒るというか笑いました。
http://keio-mitakai.sfc.keio.ac.jp/public/fukuzawa/detail.php?mitakai_id=&fukuzawa_id=79
諭吉は学問を修めた者が農業その他賤業に就くことを嫌うようになる心配など全くない、歴史を振り返れば、人知は発達し続けているが、そのために賤業に就く者が減少した事実はない、故に教育の過度恐るるに足らずと結論づけている。
ところで、現今の日本を見ると、農林業就業者数は減少の一途を辿り、この50年間で8割以上減少している。その減少の原因は何であろうか。高学歴社会になって、知的水準が高まったためだろうか。諭吉の考は知的水準とは相対的なもので、現在の知者も文明が発達すればやがて愚者となるというものだ。従って、1世紀前に賤業と諭吉が言っている単純労働には、社会全体の知的水準が上っても、相対的にレベルの低い者が就労する筈だから減少する心配はないということのようだ。だが、現実は統計に見る通りなのである。
福沢諭吉によれば、農業とは知的水準が低いものが行う仕事なのでありますよ。そういえば農業高校というヤツは、失礼ながら、学力的には最底辺に位置するやつが行く学校との印象が私にもありました。今の自分が考えれば、そういうところは専門をはっきり目指す人のための学校なので学力とかで判断すべきではないと思うのですが、中学生の頃にはそんなこと考えなかったし、きっと今の中高生にも同じく考えるのは多いでしょう。
で、百姓なんかバカがなるものというイメージに加えて、職場はド田舎です。普通の若者は都会に行きたがるものでしょう。若い異性の気配が全くないという点も見逃せません。特に若い女性農業者などコウノトリより珍重されます。
こういったイメージ以外にも、現実的な就農の難しさについて、そもそも就農しようと思ってもどうしたらいいのか分からない点があります。実家が農家ではない人間にとって、就農するということはほぼ起業と同義です。高卒でラーメン好きな新社会人にいきなりラーメン屋をオープンしろと言ってもよっぽどの変わり者でないと出来ないのと同じです。
それらの悪条件に対応するものが高収入だったり、または農業法人です。高収入の方は簡単で、新人でも年収500万円くらいにはなるとなれば黙っていても競争率は上がるでしょう。農業法人ならば、とりあえず従業員として普通に就職することが出来ます。しかも農業法人の場合は、同年代の若い人間と一緒に仕事をすることも出来ます。
このうち高収入に関しては、少なくとも国がそれを保障する動きはゼロです。自分で稼げ、起業とはそういうもんだ、と言われればその通りですが、「農業とは国の根幹だ、無くなっては困る」と言われるような仕事に対してこのような態度はちょっぴり矛盾っぽいものを感じます。
農業法人に関しては、いいとは思うんですが、まだまだキャパシティが足りていません。新しく農業法人を作れと言われても、普通の農家としての起業が1店舗のみのラーメン屋とすると大規模農業法人は全国チェーンの大規模ラーメングループを作るようなもので、そうそう大きく期待するわけには行きません。あ、一応念のためですが農業法人と法人の農業参入とは意味が全く違います。
・・・なんかここまで書いてやっぱり、何を言いたいかよくわかんなくなってきました。
政府なり誰かなりが「農業人口の減少が深刻だ!」「農業後継者の育成が急務だ!」とか言っている割には、増やす方に関しては意欲のある人間が沸いてくるのを待ってるだけなんですよね。急いでるようなことを言ってるわりにはすごくのんびりしてるように思うんです。
本当に農業人口を増やすなら、徴用まで行かずとも、一人年間400万ほど無条件でやるからお前ら農業やれ、とかいって札で尻を張り飛ばすようなことをしないと駄目なんですよ。意欲のある人間を手助けしたい、なんて言われても意欲のある人間自体全然少ないんですから。
仕事はハコモノや土地がやるんじゃなくて人間がやるものだ、と考えを改めない限り農業も医療も絶対前には進まないでしょうが、やっぱり一度潰れないとダメなんでしょう。