農水省はどうやら農業政策のひとつの柱として、減反を廃止しての水田フル活用計画を進める気満々のようですが、もちろん前途は多難です。


 生産量が増えた分の米をどう消費するか。加工品の原料としてバカ安の米を作ろうと言う計画がありますが、絶対に、その米を主食用に転用する業者が現れます。もちろん農水省内でも危惧されている明々白々な問題ではありますが、取り締まることは不可能でしょうね。どう対応するつもりだろ。
 で、ほかにも米価暴落後の保障についてや、土地を譲りたくない地主との折衝などなどといった問題については官僚や学者のセンセイ方が頭を寄せ合って素晴らしい解決策を考えてらっしゃる最中だろうと思うのですが、なんだか余り重要視されていないように思える問題に、減反地や遊休農地は果たして農地として使えるのか?と言う点があります。


 減反地や耕作放棄地を専業農家に集約して大規模化すれば低コストの農業ができるだろう、と言う理論そのものも私には胡散臭く見えてしょうがないのですが、実は問題はそれ以前に、耕作放棄地を農地に戻すことがあまりに簡単に、当然のごとく思われていることが不思議です。
 もっとも素人の方なら、文字だけを見て、減反地ならばやろうと思えば翌年からすぐ米作りもできるだろうと考えることは分かります。しかし農水省や御用学者の方々は本来は素人ではないはずです。


 例えば自動車を、全く動かすことなく数年間放置しておいたらどうなるでしょうか。放置されていた状態にもよりますが、久々に動かす時はたいていどこかしらに不具合があり、故障していることもあります。ちゃんと調べないと怖くて乗れたものではありません。1年間動かしていない原付に蜂が巣を作って全損になったと言う話もあります。
 農地だって実は壊れるのです。まあ時間とお金をかければ治すことはできますが、中山間地で地域ごと離農したところの用排水を復活させるとかいうことになれば千万近くのお金と年単位の時間がかかるところもありそうです。
 そうでない場所の耕作放棄地だってたいていは雑草が伸びすぎ、畦はボロボロ、土は固すぎか柔らかすぎのどちらか、肥料っけはありすぎ・・・と言った状態はザラなので、最低でも1年は収穫にほとんど何の期待もせずに修復だけを目標に頑張ることになります。長年放置されていたところなどはもちろんもっとかかります。木が生えている(元)田んぼなんてのもありますからね。


 まあそれでも治せばいいじゃん、と言われそうですが、確かにそうです。ですが、私が不快なのはそんな苦労と赤字を国の政策目標のために勝手に押し付けられそうになっていることです。個々の経営改善のためというならモチベーションも沸きますが、今の水田フル活用策がやろうとしているのは、低コスト農業の結果として米価を落とすのではなく、まず安い米価ありきでそれに無理矢理対応させるということなので、コスト削減で儲かるわけではなく、コスト削減でようやく元通りなのです。なんとむなしいコスト削減でしょうか。


 減反地・耕作放棄地の話に戻りますが、再耕作に向けての問題はもう一つあり、それはもともとの農地としての条件の悪さです。
 田んぼには、どれも傍目には同じように見えて実は一枚一枚に違いがあります。土の質や深さ、水の抜けやすさ、周囲の地形・天候や陽の当たりやすさなどなどとあります。


 さて、では減反や耕作放棄の対象になる農地というのはいったいどんな所なのでしょうか。いろいろ程度はありますが、普通は、地主が持っている中で最も条件が悪い、つまり作りにくい土地から順番に減反にして行きます。作りやすい田んぼだけ作って、やりにくいところは減反にするというのはごく当然な選択です。


 話を総合すると、減反地や耕作放棄地というのはそもそも条件の悪い土地が、数年放置されて壊れた状態にあると言うことで、それを無邪気に「規模拡大してコスト削減しろ」といわれてもえーそれはちょっとー、と思ってしまうわけです。
 私達専業農家はそんなことはよく知っています。なので、田んぼを作ってくれとどこからなりと斡旋があったとしても、必ず現地を見てから返事をします。地図を持ってこられても絶対信用できません。大丈夫かなと思って受けてみたらとんでもなく酷い条件の場所で、大変に苦労したという人の話もよく聞いています。


 水田フル活用なんて本当にできるのかなあ。農家の自主販売権を取り上げてJA一括で米を扱わせ、業者は強力に監視して加工用→主食用への横流し等を絶対にさせず、土地改良資金などを莫大に支払って農家直接支払いも死ぬほど用意して・・・とかやれば出来るかもしれませんが、もし最大限うまくいったとしても「制度だけは作りました」で終わりそうだし、だったら農業は本格的に終焉ですね。


koume