今朝、とくダネ!を見ると、三笠フーズの件で出演者たちが口から泡を吹き出さんばかりに怒りのコメントをしておいででした。しかし私は、米業界の片隅にいるものとして、こういう人たちより、そして大半の消費者の皆様よりは真剣にこの件に怒っています。三笠フーズは解散させ、経営陣は逮捕・起訴そして実刑処分まで行くべきです。厳重な対応で一罰百戒的効果を見せるべきです。・・・という書き出しにしましたが、今回は別にマスコミ批判をするわけではありません。


 私がなぜ、他の業界の人々・・・つまり非食品業界の人よりも真剣に怒っているかというと、実際に直接的な被害がある(あった)からです。コメに対する信頼・イメージのダウンは当然ですが、もっともっと直接的には、激安な原料を転用することによって小売価格を不当に引き下げ、それによって一般の米の相場をも不自然に下げることになった点です。不自然に安い価格の米が市場に出回ったことで、去年は新潟米ですら経済連は5キロ1980円に設定するなどと言い出す始末で、今年の相場はやや回復していますが、しかしこの件によってまた安売り合戦が始まる恐れすら無いとは言えません。


 さてこの件は各報道でも叩かれている通り、一般の方々へもかなり衝撃を与えたようです。ところで事件の影響はコメ業界にはこういう形で存在しますが、一般の方々が被った被害はどういうものがあるのでしょうか。


 まずコメへの安心感とか信頼感のようなものには少なからず影響があったと思います。コメそのものはもちろん、今回の転用米を原料としたとされる酒や焼酎、菓子などへの安心にも傷がついたと思います。
 で、先日からよく言われている健康被害の問題ですが、しかしこちらの方はほぼ無視できる程度でしょう。NATROM先生が新しいエントリを上げていて(事故米のアフラトキシンによる肝癌のリスクを大雑把に計算してみた )、そちらでは大雑把な計算ながら、今回の事件での肝癌発生リスクは1年あたりおよそ0.0018人と推定されています。私もこの数字は支持に値すると思います。
 ちなみに、一応補足しますが、大雑把な計算とは言っていますが、各データはリスクを過大目に評価しながら入力されているので、もし大雑把が嫌でもっと精密な計算をしたとすれば結果はさらに1~2桁以上小さくなります
 これは、仮に今後10年間同じ量の事故米が流通し続け、さらに三笠フーズ以外に同様の規模で悪事をしでかす企業が100社あった・・・などと言うほぼありえないほどの仮定をもってしても患者は1.8人となる、極めて小さな数字です。
 ただしここで強く指摘しておきますが、私は、健康被害がほとんど無視できるとしても三笠フーズが免罪されるべきとは一切思っていません。そもそも私が三笠フーズに対して処分すべきとする第一の根拠は、食品衛生法違反です。なので、一般食用米として流通した分については回収して処分すべきですが、加工品に関してはその加工品での残留農薬・有害物の残留量が基準値以下であれば回収しなくていいと思います。


 それ以外の「影響」としては、上の方に書いたように、市場に不当に安い製品が流通したことが挙げられます。消費者の皆さんは、一部の製品について不当に廉価なものを掴まされ、適正な価格の商品を購入する機会を奪われたという被害が発生しているわけです。
 異常に安い転用原料を使うという悪辣な方法でコストダウンされた製品は、他社の競合品より安価で販売しても利ざやが見込めますから、積み上げ式で価格計算するとどう見ても不自然な価格の商品が存在するわけですが、もしこの件が理想的に処置されるならば、おそらく今後はそのような不自然に安いコメなど市場には出てこなくなるでしょう。私にとっては全く喜ばしいことです。


 ところで話をアフラトキシンのほうへ移しますが、これの害を異様に膨らませる人の多さにはちょっとショックを受けましたが、それでもアフラトキシンのリスクがそれなりに有名になったことは一応いいことのように思いました。ただし、ここで考えをもうちょっと進めなければいけません。
 アフラトキシンは確かに怖いです。ではアフラトキシン・・・というかカビの被害を抑えなければいけませんが、そのためにはどうしましょうか。カビなどどこにでもいますし、高温・高湿の環境があればすぐ生えます。長時間かけての船便輸入なんて格好のシチュエーションです。


 で、カビを押さえる防黴剤として重要なのがポスト・ハーベスト農薬です。20年以上は前から、食の安全を訴える市民団体の手によって蛇蝎のごとく嫌われているものです。発ガン性があるといわれています。が、実際のところは当然カビ毒の足元にも及びませんし、発ガン性の分類としては強いものでコーヒーと同じグループです。


 カビは嫌だがポストハーベスト農薬も嫌だという我侭な方には、他の選択肢も一応あります。例えば定温コンテナで運んでくる方法です。湿度や温度の管理がちゃんとしていればカビは予防できます。
 が、農産物のようにカサがでかく、なによりもカサのでかさの割には価格が安いものを運ぶのに、容量が極めて限られた定温コンテナは向きません。あっという間に運ぶ空輸でも同じですが、それらでちまちま運んでいては運賃がいくらあっても足りません。お金以外にも、船や飛行機は膨大な量の燃料を使い、特に飛行機は莫大な廃棄物を出しながら飛ぶものですから、環境問題的にどうよという批判はすぐくっつくことでしょう。


 それも嫌となったら究極の選択として、食品の輸入はしないというのもアリです。が、そうなると当然、食事という行為からエネルギー補給以外の意義は失われることになります。自給率40%ですからね。


 さてどれを選ぶか、あるいは複数を組み合わせてもいいのですが、これがリスクマネージメントの考え方でしょう。


koume