もやしもん―TALES OF AGRICULTURE (1) (イブニングKC (106))/石川 雅之

 買ったのはまだ3巻までですが。


 面白いです。事前にちょっと調べたように、農業大学での学生たちの話で、しかも普通に農業と言って思い出されるような栽培系の話ではなくて主に菌系の話で、発酵とか、それに伴って醸造のこととかがメインですね。酒好きにも面白く読めます。
 最近、こういうニッチな素材を取り上げた薀蓄系のマンガがすごく増えてる気がしますね。面白いものも多いし、いいですね。


 さてと当ブログのコメント欄で地方勤務薬剤師さんから、この作品について農家はどう見るのかとか実は間違ってるんじゃないかとかの不安感を漂わせるようなご意見を頂いていたんですが、私は発酵のことはわからんとです(笑)個人的には農大(と言うか大学にも)行ってないんで、様々な意味で検証しかねる内容です。
 けどやっぱり基本的な部分がちゃんとしているので、中身は信用できると思いますよ。とかいうとすごく偉そうなんですけど。


 基本的な部分とは、とか言って説明しだすと「お前、馬鹿にしてるのか!?」とか怒られそうなくらい当たり前なことですが、有益な菌と有害な菌とは菌そのものの性質で決まるのではなくて人間側の都合で決まるってところがちゃんとしている点がいいです。代表的な部分は、発酵と腐敗の違いでしょうね。同じ事をしているに過ぎないんですが、人に都合が良いか悪いかで名前が変わる。
 何度も書くようにそんなことはごく当たり前なことですが、有機農法信奉者・・・と言うか農薬嫌悪者はそんなことにも注意を払わない人が多いので、やっぱり重要です。この点をちゃんと押さえておかないと、抗菌グッズは大好きなのに農薬の殺菌剤は大嫌いみたいな妙な主張にはまることになります。


 さて農薬については、少なくとも3巻まででは、この作品のテーマになっていないのでごくたまに触れられるだけですが、冷静にさらっと書かれていると思います。ただ、農薬嫌悪者が穿って読もうと思えば読めるような表現にもなってはいますが、つまりそれも農薬がテーマになっていないがゆえに、極端に言えば作者にとってどうでも良い部分だからなのではないでしょうか。
 これは別に批判しているわけではなくて、しょうがないことです。農薬を扱いだすと作品としてピントがずれる上に、こちらはこちらで大きなテーマになりますからね。


 ところでもひとつ農薬絡みですが、この作品では何度か、有害な菌が見つかると化学処理隊みたいのが登場して思い切り殺菌するシーンがあります。例えば(菌じゃないけど)インフルエンザウイルスやボツリヌス菌なんかですが、室内丸ごと殺菌するためにそこらじゅうにいるはずの有益な菌も有害な菌と一緒くたに全部殺菌しつくします。
 「もやしもん」を引き合いにして勝手に農薬のことを説明しますが、要するにこれが農薬の本質と言うか、もっと言えばリスクマネージメントなわけです。これは重要なシーンだと思います。


 つまり農薬使用を嫌悪する人がこのような菌や微生物を扱う視点で物を語る時、有益な菌まで殺すから農薬は悪いとします。しかし農薬はあくまで、悪い菌を殺すために使うのです。農薬を使わなければ有益な菌は生きのびますが有害な菌も死にません。有益な菌を増やせば有害な菌は駆逐されるはずだ、と言う人もいますが有益/有害はあくまでヒト視点のみに拠った勝手な分類であることは先に説明したとおりです。
 有益な菌を殺すリスクを負うが、しかしボツリヌス菌の害の大きさを天秤にかけて、殺菌することを選択しているわけです。どんな農家でも、有益な菌を殺すためにわざわざ農薬を使っているのではありません。


 1巻では農薬を使った田んぼには菌が少ないと言う表現がありますが、登場人物の樹教授はそれを「完璧な管理で草刈りの手間もコストも低い科学の英知の耕田だ」といいます。これを皮肉ではなくまともに読めるかどうかでこのマンガの評価が変わると思います。私はこれは、ごく素直に書かれていると思います。


 今度6巻まで買って来よう。


koume