5月6日北國新聞朝刊より。
◎食の安全、中国に伝播 蘇州で「石川発」有機農法 モデル水田10倍に
http://www.hokkoku.co.jp/_today/H20080506102.htm
石川県と友好交流している中国・江蘇省で、県立大の長谷川和久客員教授(土壌・肥料学)が指導する有機農法が高く評価され、モデル農場の水田の作付面積が十倍の約二十ヘクタールに拡大される見通しとなった。中国で残留農薬問題などが課題となる中、現地の行政関係者が「石川農法」に関心を示した。六月にも訪中する長谷川客員教授は「適切な農薬使用も含め循環型農業の素晴らしさを伝えたい」と食の安全の伝播(でんぱ)に意欲を示している。
モデル農場は、金沢市の姉妹都市である蘇州市が昨年造成した。水田約二ヘクタールをはじめ、白菜などの畑や家畜舎が完成しており、総面積は約六ヘクタール。長谷川客員教授はニワトリやブタの糞尿(ふんにょう)を使った堆肥(たいひ)づくりのほか、火力発電所の石炭灰を稲作に活用する方法などを伝授した。
今春までに農場で収穫された農作物の品質が行政や地元住民の関心を呼んだ。今年から水田を十倍規模に広げることが固まり、将来的には千倍に拡大することも検討中という。
長谷川客員教授によると、中国では生産性を重視するあまり農薬に依存する傾向が強い。中国製ギョーザ中毒事件が起きる前から、農薬の適正使用が課題として浮上しており、有機農法の安全性が注目されているという。八月の北京五輪を控え、今年三月の全国人民代表大会(全人代=国会)でも食の安全確保が強調された。
約四十年間、農業を研究してきた長谷川客員教授は、十六年前から中国・内モンゴル自治区のゴビ砂漠で水稲栽培を指導。この成果を知った蘇州市が農業指導を依頼した。
中国の農業生産技術の向上は国内農業を圧迫するとの指摘もあるが、長谷川客員教授は「日本は食糧輸入に頼らざるを得ないのが現状。『最大の食糧基地』ともいえる中国の農産物の品質向上は日本の食の安全にもつながる」と話している。
えっとですね。世間での根本的な誤解として、「有機農法とは、農産物を無農薬で作る農法のことである」というのがあります。これは間違いです。少なくとも日本国内で法的には有機農法でも一部の農薬を使うことは認められていますし、個人的には、有機農法の元々の意義としては農薬云々よりもむしろ肥料をどうするかによるのではないかと思います。無農薬にこだわる意義は私には理解不能ですが、化学肥料よりも有機肥料にこだわる意義なら理解できるので。
さてこの記事はいろいろな意味で誤解に満ち、扇動的であると考えます。まずもって中国製ギョーザ事件と絡めているところがいやらしいですが、あれは農業とは根本的に異なる次元でのお話です。例のメタミドホスやジクロルボスは原材料の残留農薬由来のものではなかったことは事件報道当初からわかりきっていたことです。中国産の野菜の安全性は事件報道以前以後と全く変わっておらず、特に有機農法がどうこうなどと関係ありません。
そして私はこの長谷川教授がどういう人物か、どういう農法を提唱しているか知りませんが、少なくとも記事から読み取れる点においては、無農薬農法など特に推進していないようです。記事にも「適切な農薬使用も含め」とあるように農薬の効用を認めていますし、そもそもこの教授の専門は土壌肥料学のようです。なのになぜ農薬云々、安全性云々の話になるのか、意味不明です。おそらく長谷川教授自身はとてもまともな方だろうと思います。記者が不勉強に過ぎます。
だいたい、安全性というなら実は化学肥料を使った農業の方が有機肥料を使った農業より安全です。これは嘘でもなんでもなく、実際に化学肥料が出回りだした当時はむしろ、化学肥料で栽培した野菜の方が「清潔野菜」と呼ばれてもてはやされたのです。家畜の糞尿が作るメタンガスや害虫などは案外バカに出来ませんし、寄生虫がひっついたコンポスト堆肥をぶち込んで作った野菜とか言われると誰でも引くでしょう。もちろんこれらは、デメリットばかりをことさら挙げた不公平なお話ですが、では化学肥料の話をするときにメリットなど語られるのか。ま、うちは化学肥料は使いませんが。
たった6haの実験農場での成果というところも情けない。小面積ならばいかなる農業でも出来ます。問題はこれから、面積が10倍に増えた時です。労苦は10倍ではすみません。もちろん面積千倍になどなろうものなら、それはそれは天文学的なつらさが待ち受けることでしょうね。実際にはそこまでやって初めて、いい成果が出たといえるのです。たかだか2haの水田など日本国内においても零細扱いです。
もちろん最初は軽薄短小より始めて、徐々に重厚長大にしていくという戦略は間違いではありません。私はこの点において長谷川教授を責めるものではありません。問題は、まだまだ「それがどうした」レベルである事柄を麗々しく取り上げるマスコミの方です。しかも関係ない「食の安全」になどわざわざ絡めなくとも良いではないか。こういうことをするから、むしろ「普通のもの」がどんどん敬遠されていくのです。
koume