マスコミが裁判沙汰をニュースで扱うときによく批判されていることに、原告が訴状を提出した時点でわざと報道することがあります。被告の側にも一応コメントを求めに行くのですが、当然提出されたばかりの訴状など被告側には届いていないので、「内容が分からないのでコメントできない」程度のことしか言えず、それを「感じ悪い」とか言っちゃうものです。訴訟内容自体も、訴状の内容のみを資料にして解説するので、内容は思い切り原告側に寄ったものになります。非常に不公平なマスコミバイアスです。


 ところで中国製餃子の件ですが、ほとんどの人にとってこの件はまだよく分かっていない事件だと思います。必要な情報がまだ出揃っていないと思うからです。なので現時点の(傍観者としての)対応は、とりあえず追加情報が出るまで待つのが正しいと思うのですが、マスコミという人種はどうしても待てないのですね。おかげで、少ない情報から無理やりニュースを作るために、やはりここでも「訴状の届いてない裁判」に類似したものを見せつけられることになります。


 なんか当該食品を食べて気分が悪くなり保健所に連絡した人が400人を超えた・・・らしいですが、たぶんこの人たちのうち大半は、気のせいです。中には本物もいると思いますけど、「後から思えば、なんか変だった」程度のものは間違いなく気のせいです。
 この場合原因があるとすればメタミドホスではなくて報道によるものといってもいいと思います。これだけのニュースを見せられると、餃子を食ってなんともなかった人でも「うわ、俺あれ食ったよ。気分悪い」となることは容易に想像できます。


 また、これほど過熱した報道にさらされると、後で調査の結果が出て「餃子、中国工場、原材料の農場、国内の取り扱い業者他を調査したが問題は見つからず、実は怪しまれていた餃子は購入後1ヶ月の間常温に放置されていて腐っていた。メタミドホスは検出されたが、基準値以下であった」というガックリな落ち(可能性はものすごく低いけど、無いとはいえない)だったとしても「それは工場か厚労省が嘘を言っているに決まっている!」「闇取引的なものがあったに違いない」となって絶対認められないことは目に見えますし、そのうち「中国のほかの冷凍食品工場の品物も輸入禁止にしろ」と言い出す団体が出てくるに決まっています。前者のような極端な話はともかく、後者の例はマスコミ主導で持ち出す可能性もあり、もしそうなれば2次被害の事例だと思います。あまり健全な態度とは思えません。


 ところで残留農薬の検査ですが、一般の方はこれがどのように行われるか知っていますか?どこかの大学の研究室に食品を持ち込めば出来るんじゃないか、程度の感覚ではないかと思います。検査自体も、食品を何かの機械に押し込んでスイッチを押せば数分でピッと出てくるとか・・・そんなものではないです。
 自分も数はうろ覚えなのですが、実は残留農薬検査が出来る公的機関は日本全国でも十余りしかありません。(←間違い。各都道府県にもあり、日本全国に十余りということはありません) 普通の大学や保健所に持ち込んでも出来ません。もともと機関の数が少ない上に、最近は安心にうるさい食品事情の中、残留農薬検査を依頼する業者が増えていて検査機関はいつも予約でいっぱいいっぱい。普通に申し込んだ場合、結果が出るのに一ヶ月かかるなんて事はざらなのです。
 もちろん今回の件での依頼(警察からか厚労省からか)は最優先で行うんでしょうが、それでも数日はかかるのが当たり前です。農薬は非常に分解しやすく、ちゃんとした設備と手順で行わないと、分析中に分解が進んで桁違いに少なくなってしまう、もっと行けば検出されないほど少なくなってしまう事もあり、とてもパッとかピッとかでできる代物ではありません。


 今回のメタミドホスはたぶん農薬由来ではないと思うのは以前書いたとおりですが、食品中の殺虫剤を分析するってことになるとその場所はやはり残留農薬検査ってことになると思うので、他に適当な名前も分からず農薬と書いてみました。実際に農薬の分析をしていらっしゃるより さんからのコメント にもあるとおり、やはり、メタミドホスの分析が殺到しているようです。
 新聞を見ていると、メタミドホスを殺虫剤として扱い、農薬とは書かないところも多いです。それはいいと思います。

 しかしやはり農薬と呼ぶニュースもまだあり(「農薬ギョーザ」なんてテロップも見た)、複雑です。もちろん理屈の上では、餃子の原料に残留農薬が、という話も無くは無いのですが可能性はかなり低いし、少なくとも農薬と断定することは出来ません。


 まあ、そう文句を言うほどニュースをたくさん見ているわけではないのですが、夕べの日テレのZEROはびっくりしました。農薬と連呼していたのはもちろん、なぜか中国のブドウ畑に行って農薬の使用状況を取材しておりました。えっこんなに使うんですか??みたいな映像でしたが、あなたたちは普通のブドウの栽培状況を知っているのですか?農薬使用が多いとか少ないとか、どういう基準で見ているのか・・・まあ私も知らないんですけど。しかも今回の件とブドウとは関係ないし。きっと、ブドウの栽培には農薬(たぶんあれはボルドー液)をたくさん使う、と聞きつけたスタッフがわざわざあれを選んだに違いない。
 ところでボルドー液は結構危ないほうの農薬ですが、なぜか有機農法でも使えるとなっている不思議なものです。


 「消費者の皆さんには冷静な対応をお願いしたい」といっているマスコミが一番加熱しています。しかも無駄に過熱して周囲をあおっている始末ですね。ちょっと落ち着いてほしい。まだ分かってないことが多すぎるのです。


koume