先日、某所である役人の話を目にしました。
講演に曰く、稲作に関わっている補助金を削減して農家への直接支払い制度を確立し、その分米価を下げて、農産物の関税撤廃に備えるべきだと。EU諸国はそうなっているという話です。そうすれば農家の大規模化が進み、生産性も食料自給率も上がると。
たしかにEU諸国では農家に対する直接支払いの制度が確立しています。イギリスなどは農家の所得の6割が直接支払いだそうです。日本の場合は補助金は多いと批判されてはいても直接支払いを含めた農業関連予算全体は多くなっているか分かりません。(たぶん少ないと思います)
この話の要点は、まず手厚い直接支払い制度がないと始まらない点です。ただし保護がないまま米価を下げ、かつ今後も下げようとしているのが今の日本の農業界の現状です。工事現場に入るときにつけるヘルメットや安全帯は入る前につけるから意味があるので、入ってからつけても意味がないのと同じです。直接支払いがないままにいくら経済界が「米は高すぎる」といっても、原価を下回る価格の米を作るのは無理な話なのです。普通に稲作農家がやっていける米価が17000円程度とされていますから、米1俵あたり9000円にしたいなら、直接支払いが8000円ほど保障されればできると思います。
もちろん直接支払いをするには、専業農家(大規模農家)のみに的を絞らなければ財源がいくらあっても足りません。小規模農家は切り捨てる必要が出てきます。ここのあたりで民主党などは批判を受けていますが、逆に「零細農家は切り捨てて、何が悪い」と開き直れたらすごいのですが・・・近視眼的視野に取り憑かれている政治家たちには絶対そんなことはできません。しかし実際には必要です。今の農政は、零細農家を守るべきなのか専業農家を守るべきなのか、その区別すらできていないところに混乱の種がありますし、最もバカなところです。両者は全く違う方策が必要です。
ところで私は今まで、分かっていたはずのことにずっと騙されていました。この役人氏の話を見てようやく気づいたのですが、「稲作のコストを下げろ」とか「経営の大規模化を進めればコストを下げられる」とかは、専業農家に対して言ってるのではなかったのですね。
大規模専業農家に対して、これ以上の効率化をせよなどというよくある提言は、テレビなどで見るたびに我が事のように感じて「お前ら現場知ってるのかよ」とつぶやいていたのですが、実はそう言ってる対象は業界全体に対して・・・突き詰めれば零細農家は辞めろという話だったのでした。田んぼ数枚しか作っていない兼業農家が、高価な農業機械を買ったり、そもそも未熟な技術で趣味的な稲作をすることは確かに無駄です。経済学的に見れば。こんな単純なことに気づかないとは私もバカです。政治家たちははっきりした言葉で言わずに、得意の玉虫色的表現でずーっと昔から言っていたのです。
しかし私のバカはさておき、提言する方(政治家や役人)だって両者(専業農家と零細農家)を特に区別していません。だからこそ誤解していたわけですが、言う方からすればこれを区別してしまうとまたぞろ「小規模は切り捨てるのか、格差拡大か」との批判が噴出するからとの気遣いでしょう。が、それでは全く話になりません。「1件の農家あたり100ヘクタール作ればコストダウンできる」などとの学者や財界人の主張も、実際には「兼業農家を潰してその分専業が作れ」という意味だったのですから困ったものです。玉虫色の表現に、農民は慣れていませんし、零細農家は普通に田んぼを作る気満々でいます。
政府や経済界が自分たちの考えどおりに農業を守ろうとするなら、一刻も早く正直になり、直接支払い制度を作るべきです。今のまま放っておいて、農家の自然減を待っていても零細農家はすぐ消えますが、それから支払い制度を作ろうとしてもその頃にはすでに大規模農家の方も体力の限界は過ぎ去っています。ま、実際には農家にお金を出すつもりはこれっぽっちもないんでしょうけど。
今の多額の補助金は、それがJAや土建屋、メーカーなどに流れるからこそ多額でも由となっているのです。
koume