経済専門である日経新聞は、時々、経済の視点から見た農業関連の記事が出ます。経済のお偉いさんによる「食糧争奪」という記事が3日連続で載っていましたが、どれも同じような意見で、画一的である意味面白いです。
とりあえず1つずつ載せるとして、今日は2007/12/19の日経新聞から引用。記事をクリックすれば拡大します。
食糧争奪 -経済人3氏に聞く(中)-
ゼンショー社長 小川 賢太郎氏
――穀物から畜産、水産物に広がる食糧価格の上昇をどう見ますか。
「世界経済のグローバル化で中国やインドが国際市場に参入し、世界の消費者が市場に組み込まれるようになった構造変化の結果だ。ただこれが永続するとも思えない。価格が上がれば作付けが増える。投機的なマネーの流入が価格を大きく上げた原因で、逆に下げも大きいはずだ」
――国際価格の上昇の割には国内の食品の小売価格は上がっていませんね。
「当社は牛丼の『すき家』チェーンをはじめ傘下の外食グループ全体で調達から加工、物流まで効率的な仕組みを造り上げてきた。原材料コストを吸収し、安易な値上げは避けている」
「ただ一般論でいえば、大手量販店が価格決定権を握り、メーカーや問屋の値上げ要請を押さえ込んでいるように見える。安く売るには大変な企業努力が必要で、それには敬意を払うが、食品メーカーが技術革新のための投資ができるよう考え方を変える段階にきている。そうしないと結局は商品の品質劣化を招く」
――穀物高は牛肉の価格にも影響しますね。
「牛肉を1キロ増やすにはトウモロコシが8キロ必要だ。日本人はサシの入った肉を好む。穀物肥育を否定するわけではないが、草で肥育する畜産も見直すべきではないか」
――日本の農業のあり方をどう考えますか。
「重要なのは農業を産業とすることだ。農業は衰退し、後継者もいないと当事者があきらめている。そのため、国はいかに助成金を付けるかばかり考えている。だが助成金で栄えた産業はない。外食産業も過去10年で売り上げは5兆円減った。その意味では衰退産業かもしれないが、上位10位の寡占化が進んだ。農業ではどうか。最も意識の高いという農業生産法人の上位30位の売り上げは合計300億円しかない。農業の産業化を進めないと外食産業も困るし、消費者も困る」
――産業化するには?
「後継者が出てこれるように国が支援する体制が必要だ。農業就業者の平均年齢は68歳といわれる。15年後にはほとんどいなくなる。急務といえる」
「規模拡大も必要だ。我々も国産牛肉を使いたいが半値にならないととても使えない。25年前の創業当時、コメは1俵(60kg)2万円したが、今は1万円が視野に入る水準まで下がった。1万円なら使い続ける自信がある。だが今の規模では無理。最低でも一戸100ヘクタール。200ヘクタールにまとまれば国際競争力も持てる」
――食糧自給率を上げる必要があるのでは。
「39%はカロリーベースでの数字。金額ベースでは70%だ。都市の近郊農家が売る野菜などはほとんど自給率にカウントされていないためだ。今の水準を落とすのはどうかと思うが、いいところではないか」
ゼンショーといえば記事中にもあるように牛丼チェーンの「すき家」ですが、すき家の牛丼は並盛350円です。米が1俵1万円なら使い続けられる自信がある。って結局のところ、自分たちのことしか考えてない発言ですね。
100ha作れば1万円でもペイする、とは現場にいる者としてちょっと信じられません。2万円では使えないなら、別に使わなくてもいいんじゃないですか?牛丼を400円にすれば魚沼コシヒカリでも使えます。
・・・というと、これはこれで農家の立場からしかものを言ってないんですけど、1俵1万円がどれほど安価な額か財界人は誰もわかってない。わかろうともしていない。
もう一つ、経済評論家が全然わかってないことは、100haという面積についてです。メチャクチャでかいです。どこにそんな田んぼがあるんじゃ。
1haは10000㎡(100m×100m)です。よく言われる東京ドーム一つ分は約4.7haです。
今、農家の平均耕作面積ってたしか2haくらいじゃなかったかなと。それは2ha程度の農家が多いのではなくて、2反や3反くらいしか作ってない兼業農家と、10町以上やってる専業農家で両極端になってるんですけど、まあ野菜と米・麦でも面積は全然変わります。米専業農家としては、まあ最小は5haとかからで、地域にもよりますが50haも作ればまず大きいといわれます。うちは栽培面積は13haくらいです。だいたい東京ドーム3個分くらいですか。
ゼンショー社長様が言われる100ha(東京ドーム21個分)には遠く及びませんが、それでも特にうちがサボってるとか、異様に非効率的な仕事をしているとかは無いと思います。うちは家族3人経営で、手間暇をかけて単価の高いものを作る方向でやっているのですが、仮に量をたくさん作る方でやっても3人では20haくらいで頭打ちじゃないかなと思います。100ha作るには人手が必要で、面積が大きくなるに連れて人手などの方の経営規模も同じく増えていきます。でかくすれば安く作れる、などと簡単に言えるものではありません。効率化のために機械を導入しても、コンバインなんか1000万以上するから、全額ペイ出来るまで数十年かかりますし。
そしてそんな話も当然、100haの面積を何とかできるとの条件が前提です。やろうと思えばポンと面積が集まってくるものではありません。
仮にこの「一戸100ha」が田んぼではなく牧場の話だったとしても、100haもの牧場を作れるのは北海道ぐらいで、あとは本州に数えられるぐらいの数戸が出来るのみじゃないでしょうか。
しかも、アメリカなどの海外で大面積というのは千ha単位で、100ha作ってもまだ桁が違います。しかも海外では田んぼ一枚一枚の大きさも違うし、気候も違うしで、大型機械の使いやすさや資材の使用割合、農薬の使い方も変わります。200haにしたからと言って海外との競争力がつくわけではありません。私はむしろ、日本の場合は小面積でも高価値な物を作ってこそ、競争力があるのではないかと思います。
海外には数十円で食事が出来るところがあります。日本の米を1万円にしないと競争力が保てない、というのはすき家の牛丼を1杯50円にしないと国際的な水準ではないと言っているのと同じです。
ほとんどの農家は、商人としての視点というか、経済学的な視点を持っていません。それはそれで問題ですし、農家はもっと勉強しないといけないとは思いますが、だからと言って経済学的なものの見方が全てに優先するものでもないでしょう。
でもメディアに出て発言するなら、もうちょっと現場を知って欲しい・・・ってそれはメディアそのものの問題でもあると思いますが。影響力が違いますからね。医療界も同じですが。
koume