昔の農村の風景をご存知の方なら見た事があるかと思います。これは稲架(はさ)といいます。今は籾の乾燥には乾燥機を使いますが、昔は、刈り取った稲は縛ってこれに架けて干していました。はさ架け、またははさ干しと言います。
今、はさ干しを行う農家はほとんどいませんが、ど田舎に行くとたまに見かけることがあります。はさではなくガードレールに架けてるのを見る事もあります。
はさ干しの米は、乾燥が理想的に行われれば機械乾燥の米より美味しくなります。それがわかっていながら今は誰もはさ干しを行わないのは、理想的に乾燥するのがものすごく難しいからです。
まず量の問題ですが、写真のはさは高さがだいたい3メートルくらいありますが、これに架けられる稲の量はだいたい田んぼ1枚分くらいでしかありません。はさはかなり大きいものですが、田んぼが10枚あればこのはさも10基必要になります。架ける作業もすごく大変ですが、そもそも設備自体が大量に要るわけです。
そして乾燥ですが、機械ならばだいたい1日程度で出来る乾燥が、はさ干しだと10日かかります。もちろん、10日の間に雨でも降ろうものなら台無しとなります。かなり乾燥した状態で雨が降ると籾に胴割れが起こる事がよくあり、米の外観が悪くなるし、湿ったせいで発芽する籾も出ることがあります。やるのは雨の少ない夏ではなく、秋なので気を使います。
加えて、米の理想的な水分含有率は15%前後で、機械乾燥ならば水分を自動的に測りながら調節してくれますが、はさ干しには当然そんなセンサーなどついていませんから、15%に合わせるにはある程度のカンや細かい計測が必要だったりします。もちろん普通にやってたらムラが出るので、ムラが出ないような工夫も必要です。
なので最近は、最初の7日ほどだけはさ干しで乾燥し、その後改めて乾燥機に入れて仕上げ乾燥するという手法もあります。時たま「天日乾燥米」が出回っていますが、ほとんどがこういうものじゃないかなあと思います。もちろんこれでも相当な手間になるのですが。
昔はみんながこれでやっていたのですが、現在は出来ないのにはいろいろ理由がありますが、大きいのは、昔の農家は一件あたり5枚くらいしか田んぼを作っていなかった事と、人手がたくさんあったことです。今の米専業農家は田んぼ100枚くらいは平気で作っているので、昔とはぜんぜん条件が違うんですよね。
はさ干しの光景はのどかに見えますが、実際には戦場のように大変です。
koume
