ある原子力発電所が、ここは震度6強まで耐えられる設計だと発表すると、時にマスコミ各社は「じゃあ震度7の地震が起こったとしたらどうするんだ!危険じゃないか!」と言います。しかし実際には、震度6強まで耐える原発は震度7でも壊れません。それは安全率という考え方があるからです。
安全率とは、機械を勉強したものなら誰でも知っている、基本にしてものすごく重要な概念です。私は今は農業やってますが、学校は某高専の機械科でした。
さて安全率とは、ある構造が必要とする強度をAとして、実際に壊れてしまう応力をBとした時の、AとBの比の事です。具体的には、100キロ(応力ですから本来はkg/単位面積ですがここでは省略)まで耐えられますよという台があって、実際には150キロまでは耐えた(150キロで壊れた)というなら安全率は1.5となります。
安全率を説明する例によく用いられるのはエレベーターです。業務用のエレベーターなどに乗るとよく、許容人数16人・重量1000kgまでなどといった表示があります。一定の重量を越えるとエレベーターは警告音を出します。ではこのエレベーターは、17人乗ったり1010kgぶんの人が乗ったりすると壊れるのでしょうか?
実はそんなことは無く、このエレベーターなら実際には10000kgくらい乗っても壊れないように出来ています。普通のエレベーターは安全率10や20には設定されています。
安全率は物によって大小がありますが、たいていは1.5~2くらいは見ています。1を切る事は無い・・・と言うか1未満だったら不良品ですね。そして、絶対に壊れてもらっては困る、壊れてしまうと大変な惨事が予想されるものには非常に大きな安全率を掛けることがあります。エレベーターや原子力発電所はその典型例です。だから原発は、震度6強までの設計であっても震度7に耐えるといえるのです。
安全率とはつまり強度上のゆとりと言うか、余裕です。
機械などは常に予想外の力がかかる事が前提になっています。突飛な使い方をされる事も計算のうちに含めておかなければならないし、あまり極端な例を考えなくても、応力の強さはそのかかる向きや勢いによって簡単に何倍にも大きくなります。機械屋には常識ですが、もし100キロまで耐えられるという構造が本当に100キロまでしか耐えられないとしたら、そんなものは100キロ以下の荷重でも壊れてしまいます。
エレベーターの例で言えば、中に乗っている人全員が同時にジャンプして、たまたま同時に着地したらその衝撃は全員の体重の何倍もかかります。そんな状況はほとんどありえませんが、絶対に無いとはいえない以上、設計でケアしておかなければならないのですね。
さて現場ではこういうことは常識なのですが、1000キロ耐えるという表示があればこれに1001キロかけたら壊れてしまうのだ、と解釈してしまう人が本当にいます。代表的なのがマスコミの人々です。
よく理系の人間は数字にきっちりはっきりしていて、文系の人間は曖昧だと言う事がありますが、実はこれは全く逆です。文系の人のほうが数字を機械的に処理します。
例えばゆうべの「行列が出来る法律相談所」で島田紳介が、時速70キロの自動車が1時間に走る距離は何キロだ?という質問をしていました。これに即答できなかったスザンヌやMieは重症ですが、これを算数の問題ではなく実際の現場の話だとすると答えは70キロではありません。高速道路で時速70キロで1時間走っても、移動距離が70キロになるわけがありません。坂道やカーブ、風、路面状況などでいくらでもスピードは変わるので時速70キロを1時間にわたって維持するのは不可能です。
賞味期限を1日過ぎた食べ物を食べてもなんとも無いのも、ある意味安全率といえますね。安全率の概念など本当は誰でもわかっていることなのですが、こういうことをきっちり理解して様々な分野に応用するととたんに世の中が安心になります。
逆に言うと、安全率を無視して全てのものを完全に字義通りに解釈すれば(言い換えると全ての安全率を1として処理するなら)、不安情報などいくらでも作り出すことが出来ます。マスコミはこのあたりを誤魔化すのが非常にうまい。
koume