本邦の食料自給率が低いことは有名で、国政選挙がある場合の各党のマニフェストを見ると農業分野に関しては必ずと言っていいほど自給率の向上が掲げられています。
自給率が低いことは確かに問題で、自給率を上げることは重要な問題だとは思いますが、しかし現在の仕組み・政策では自給率の向上など全く望めないし、そもそも本当に自給率の向上を目指してるとすら思えません。まあもともとマニフェストなど単なるうそつきの看板に過ぎないことは分かっているのですが。
ところで食料自給率が低い国には大きく分けて二つのパターンがあると思います。一つは農業技術が低い、あるいは予算が無いが為に自給率が低いというもので、発展途上国に見られるパターンです。言い換えれば、単位面積あたりの収穫量が低いことを原因とするものです。
日本の場合は全然違って、高い技術も予算もあるが農業人口・面積が無いが為に自給率が低いパターンです。単位面積あたりの収量は高いのに全体的には自給率が低い。
日本のパターンの問題は、自給率が低くても国の食糧事情自体がひっ迫しているわけではないということです。これが何故問題かと言うと、自給率が低いのにその事に全然現実味を感じられない点です。国政選挙の場合、農政についてはどこの党も「自給率の向上」を公約として掲げますが、誰もそんなことを重視していないし実際の政治運営でもお題目として存在するのみであって、スローガン以上の問題として捉えられることはないと言っていいのではないでしょうか。
自給率が低いのに食料は豊富にあるのはもちろん輸入が多いからです。肉や野菜、穀物などはもちろんとして、普通の方が気にしていない食料輸入で大きいものに飼料の輸入があります。家畜の餌です。余談ですが、日本では正しい事情をだーれも知らないので今でも飼料は非遺伝子組み換えの物を指定して輸入しているところがほとんどですが、大豆とか麦とかトウモロコシとかの全世界的な傾向はほとんど遺伝子組み換えのそれに移行していて、非遺伝子組み換えのものを手に入れることが年々難しくなっています。大豆など全世界の8割以上が遺伝子組み換えのものになっているのですが。
さて日本の場合、自給率が低い理由は生産量が低いからもありますが、大きいのは、国産のものを食べないことです。国産を食べないと言っても野菜を選ばないとかそういう話ではありません。要するに今現在の日本の食文化に入り込んでいる様々なバラエティに富んだ料理は、つまりフランス料理やイタリア料理や中華料理やラーメンなどなどは、日本で作れる農産物で賄いきれる範囲をはるかにオーバーしているという事です。例えば、輸入が全く途絶えたら食卓はどうなるみたいな例が出て、その時はご飯と芋と魚ばかりの毎日になるとか言われますが、これは逆に言うと、もしそういう生活をするなら今すぐにでも自給率は急上昇します。
食育が自給率向上に役立つと言うのは、まさにこういう意味でなら成り立ちます。ただ、今さらそんな食生活をしろといわれても出来ない人がほとんどだろうし、我々はうまいものを知りすぎています。まあなんにしろ、食育がどうとか地方の伝統食がどうとかの話をしてすぐ次の番組で、セレブ御用達のイタリアンを紹介するなどと言うトンチンカンな事をやっていては食育の意義なんか一切無いわけですが。
しかし自給率の向上をと言った時、普通に期待されるのは、例えばイタリア料理で使われる食材を日本でも作れとかそういう意味の事だろうと思います。実は食文化のことを一切考えずに単に量と考えて、自給率を1%上げるには琵琶湖と同じだけの面積の麦畑が新たに必要だと言われているのですが、そこにさらに例えば、パスタに最適なデュラム・セモリナ種を作れと期待されてもそれは無理な相談と言うものです。日本の気候条件とイタリアの気候条件はまるで違うので、仮に同じ品種のものを作っても品質は変わります。
また現在の日本は食糧を輸入してなおかつ残飯などが出て余っている状況ですから、自給率を上げようと食糧を増産しても、ただ単にそれが余るかまたは輸入した食糧が余るかどちらかの話になります。人口が増えているわけでもなし、メタボリックがどうとか馬鹿げた事を言われている昨今でもあり、安易に「自給率向上」を謳う事は出来ません。本気で自給率を上げるならまずはその前に各国からの輸入作物を減らす事が必要になります。工業製品の輸出を増やす為に、食料輸入の非関税障壁はむしろ撤廃する方向にありますから、そういう意味でも自給率の向上などに本気で取り組んでいない事は明らかです。
ただ最近、懸念が進んでいるのは、何もしなくても普通に輸入が減っていくのではないかと言われている事で、それは先に書いたように意味なく遺伝子組み換え作物を忌避したりの行き過ぎた安全観念で、日本という市場が国際的に興味を失われつつあることと、もう一つは中国やインドなどが巨大な食糧輸入国になりつつある事です。特に中国は日本最大の食料輸入相手国なのです。実は輸入野菜はかなりの割合で中国からのものです。その中国が食糧輸入国になってしまえば、日本に入ってくる野菜が激減する事はもちろん、他所の国の輸入野菜も中国に流れていく事もありえます。BSE騒ぎで日本の安全妄想が非常に面倒くさいと知ったアメリカの食肉業者は日本市場より中国市場を見ていると言う話もあります。
このままでは近いうちに、日本国内の食糧事情は自給率どおりの悲惨なものになる恐れもあります。それどころか農家もどんどん減っていますから、自給率もたぶん維持するのが精一杯で、上げる事などとてもとても不可能です。それに加えて、収穫量が物を言うバイオエタノール用作物の生産などとても不可能でしょう。
個人的な考えですが、これ以上日本国内で自給率を上げるのは不可能だと思います。対策としては、国内では無理なので、日本の農家が例えば中国やオーストラリアなどに出張って農業をやってそれを日本に輸出する、メイドインオージー・バイジャパンなどと言う方法はどうかと考えた事がありますが、受けは悪かったなぁ。
koume
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