こういうお話↓
 http://www.jacom.or.jp/kensyo/kens101k06070401.html


 海外では植物を原料としてバイオエタノールを作り、石油の代替燃料とする研究が結構進んでいます。バイオマスといえば有名でしょうか。現在は特にブラジルなどで盛んだそうです。
 日本でもそういう研究をやっているところはもちろんあって、リンク先の記事では、新潟でそれ用の米の新品種を開発したそうです。日本の農産物といえば米ですし栽培技術の蓄積も豊富ですから、米をエネルギー作物に転用するという発想は突飛なことではありません。私の予想では、米が余っているなんて状態はここ5年の内だけだと思いますが。
 さてその品種、北陸193号と言う名前で、味は不味くてもとにかくたくさん収穫できることに重点を置いたものです。10アール当たり800キロほどの収穫が可能だそうで、普通のコシヒカリはだいたい400~500キロくらいですからかなり多いです。エネルギー材料としての価格はキロ当たり20円くらいが商圏となるようで、全農は1俵(60キロ)1200円を考えているそうです。ちょうどキロ当たり20円です。ちなみに現在の普通の食用米の小売価格はキロ当たり350円くらいで、農家手取りは250円くらい。


 さてさて全農がいったいどういう試算のもと、20円なんていう数字をはじき出したのか私はよくわかりませんが、ひとつ私の知っている数字を組み合わせてみます。
 専業農家が、農作業の請負をしているのは以前書きましたが、当然タダでやっているわけではありません。料金は地域ごとに差がありますが、うちのあたりではだいたい刈り取りでキロ当たり50円くらい、乾燥調整で40円くらいです。
 最初に示したリンク先では乾燥調整をしない計算で見ているようですが、実際にそんなことはできるのでしょうか。ふつう乾燥調整は絶対必要な行程で、多湿な日本の気候では、刈り取った籾を放っておいたらすぐ腐ります。試験栽培では量も少ないから農家が乾燥をしなくてもいいのかもしれないけど、本当に産業として取り組む際はすごい大量の米が集まることが考えられますから、それだけの乾燥作業を捌くキャパシティだけですごい投資になりそうです。生籾の状態では全然保管できませんし。それだったら農家に乾燥も任せたほうが現実的。ある程度以上の規模の専業農家ならみんな自前で乾燥しますし。


 ちなみに乾燥については、現在は乾燥機があり、乾燥代は手間賃に加えその機械そのものの減価償却や燃料代も含みます。機械が無かった昔は高いやぐらを組み、そこに籾を藁ごとかけて自然乾燥していて、現在もこだわりの農家がそれを実行していることがありますが大変難しく手間もかかる方法で主流とはなっていません。乾燥は足りなくても困るし、乾燥しすぎも困ります。雨が降ったら一発でアウトです。熟練の技術とカンが必要です。ただしこの方法でうまく乾燥できた米は確かに美味しいです。


 少し話がそれましたが、つまり秋作業だけで90円かかるんですね。乾燥しないとすると50円か。この価格から、頑張って儲けを圧縮し、さらに多収量の品種を扱うという条件を考えて3分の1に出来たとしても17円。当然、米を作るにはこれ以外にも膨大な仕事が必要です。苗を作って田んぼを起こしたり均したりして整備して、田植えして、夏じゅう水管理して3円かよ(笑)肥料や農薬などとてもじゃないけどやってられません。
 20円という数字が、どれほど非常識なものかお分かりでしょうか。実は米の種籾代だけでも2円かかるんですよね。苗も無償で提供してもらわないとな。それでも黒字には程遠そうだけど。刈り取りのコンバインは500万。20円の米をどれだけ作れば買えるのやら。メンテナンスも出来ませんね。


 でまあ、20円という価格を前提にするとどう考えても採算を取ることは不可能で、リンク先でも赤字になることは指摘されていますが(しかしキロ当たり3円の赤字って意味不明。50円くらい赤だろう)、そこを超人的な努力と魔法と妖術で何とかして19円で生産して1円儲けたとしても、人を1人養うだけの収益を上げるためには200万キロを作らないといけない計算になりますね。それでも年収200万ですから、入社初年度の新人社員並みですけど。
 200万キロってすごいですよ。うちは、私と両親の3人で専業的に米を作って、年間約42万キロの生産量ですから。それを、1人で200万キロとはね。


 試験栽培に参加した農家は、補助金が入るならやってもいいって見解を示したそうですがほんとかな?今、屑米でもキロ当たり70円くらいなんですけど、1キロ23円の米を作れといわれてもいくら補助金もらっても嫌ですけどね。
 しかも、そこに補助金なんか入れてもしょうがなくて、結局は製品価格で取るか税金で取るかの違いだけでしょう。補助金も財源が無ければ払えるわけが無いし、それは税金以外にありえませんから。それだったら最初から製品価格に乗せておいたほうが真っ当だと思いますけど。


 実は、単に米をたくさん作るというだけならそれなりの方法があり、例えば1度植え2度刈りなんてやればどんな品種でも1.5倍くらいは作れますから(優れた気候条件が必要で、品質の低下は言わずもがなですが)、超多収量の品種なら10アール当たり1200キロくらい作れるかもしれませんが、そこまで頑張っても20円で作れる農家はいないでしょう。だからといって米をエネルギーに転用するのが無理だというわけではありませんが。


 新品種というなら、遺伝子組み換えでもなんでもやって害虫や病気に完全に抵抗し、旱魃にも強く、肥料をやらなくても多収である、リンク先では作期が遅いことが紹介されていますがむしろ超早熟の方が好ましい、といったもっと徹底して進んだ品種が必要でしょうね。収量も2倍なんて生易しい。10分の1の値段で作らせるんなら、最低でも10倍は採れないとつじつまが合わんでしょう。まあそれはいくらなんでも無理だろうけど。


 エネルギー問題を解決する手法を考えることには全く反対ではなく、むしろどんどんやればいいと思っているのですが、しかしエネルギー危機に瀕しているであろう状態で、なぜその新エネルギーを現行の価格並みに抑えて提供しなくてはならないのか?と疑問です。暴利を取れなんて全然言いませんけど、適正な価格を曲げてまで何故安くするのか?米は現在、250円でも安くてしょうが無いんです。1俵1200円の米なんて、まあやるって言うなら全農さん自分でやれば?農家としては、そんなもんには到底付き合えないよ、ってところです。これだけ農産物の価格が下がっても、コンバインの価格は全然下がらないんだから。農家に霞を食わせるのはもう勘弁してください。


koume