先日うちに、ある方からメールが届きました。米に関する残留農薬の質問メールです。
 内容は、
 「そちらでの米への農薬使用はどうなっているのですか?玄米食をしているので気になっています」
 というものです。


 私は以前、マンガ「美味しんぼ」で、「玄米の場合は米の外側に残留農薬が溜まるので、玄米食をする際は有機栽培の米で無いと危ない」と言うのを読んだ事があります。このあたりが噂の発信源かなと思わないでもないのですが、まあ美味しんぼばかり悪役にするのもフェアではないでしょう。というわけで、要するに玄米と言っても農薬が残留することはほとんどありません
 まあ私は現代の農薬事情しか知らないので、美味しんぼにそれが掲載された当時の状況はよくわからないんですけど。


 ところでいきなりですが、「農薬が残留することはほとんど無い」と言うのは我ながらちょっと誤解をはらむ表現でして、残留すること自体はよくあるんです。ただ、「消費者に悪影響を与えるほどの量が残留することは無い」と言うことです。毒物の作用はほぼ全てが量の関数であって、残留量が充分少なければ問題はありません。残留農薬に関してはポジティブリスト制のせいで現場はいろいろ混乱していますが、基本的には、決められた基準値以下なら残留していてもかまわないのです。
 ただ、いかに少なくても残留していれば気持ち悪い、と言われるのが農薬です。そういう話は感情的にはわからないではないのですが、しかしこれは化学的には間違った態度です。残留を完全にゼロにすることは不可能だからです。
 実は完全無農薬の有機栽培を行っても、その米から農薬が検出されることはあります。他所の田んぼから飛んできたりするわけです。それともっと重要な話ですが、植物にはそもそもの特性として発癌性物質を持っており、有機栽培の野菜の方が、農薬を使って育てたそれよりもたくさんの発癌性物質を持っていると言う検査結果もあります。


 ちなみに、玄米の外側に残留農薬が溜まるのは本当です。ですが、そもそも米の残留農薬検査は玄米の状態で行われ、要するに玄米ばかりをずーっと食べたとしても体に悪影響は出ません。残留農薬基準値はそういう観点から決められています。白米の安全性だけを求めるならば、米の残留農薬基準値は現在の10倍くらいに出来ます。


 さて農薬の残留の基準ですが、基本はADIと言って、簡単に言うとラットに対して農薬を一生涯投与すると言う実験を行って、全く何の影響も出なかった量のさらに100分の1がひとつの基準になっています。この基準が安全かどうかは感覚の分かれるところだと思いますが、私はとても厳しい基準だと思います。
 そして全ての農薬は現在、使用の基準が決まっていて、それは回数や濃度に関するものですが、これを守れば作物への残留は必ず基準値以下になるようになっています。
 
 次に農薬そのものですが、現在日本で流通している農薬はかなりの種類が、最近新しく開発された物はそのほとんど全てが易分解性に重点を置いて作られており、つまり「残留しないこと」が大きな焦点になっています。ところでこのあたりが大きな誤解になっていると思いますが、農薬そのものを飲むことと、農薬を使って育てた作物を食べることには天地の隔たりがあります。いくらなんでもこんなことを混同しないと誰でも思うでしょうが。
 農薬は、使った瞬間から分解されていきます。その分解の経路はいろいろで、例えば紫外線で分解されたり土中の微生物にやってもらったりとありますが一番大きいのは植物そのものの代謝です。簡単に言うと、農薬は時間が経つにつれてどんどん薄くなるわけです。


 さらにもうひとつ。葉っぱ物などで表面に農薬がついてるんじゃないか?というようなものは、もちろんついてても問題の無い量ではありますが、それでもそういうものは水洗いすればさらに簡単に農薬は流れます。火を通す場合はもちろんですが、サラダとして食べる時でも全く水洗いもせずに野菜を食べる人はそんなにいないでしょう。米は炊きますからなおさら農薬など考える必要はありません。


 ちなみに、農水省は毎年、農産物を対象にした抜き取り検査を実施しています。結果は農水省のウェブページに掲載されていますが、国産の農産物において基準値以上の農薬が検出される例はほとんどゼロです。


 農薬は、「なんとなく気持ち悪い」という感情のみで扱われることが多く、恐ろしいことにそれが市民権を得てしまい、様々な基準はその「気分」を基に作られています。


koume