今年、農業業界全体を揺るがす最大の問題といえばこれでしょう。去年から一部では話題になっていましたが、最近になって農家にもやっと浸透して来ました。5月29日から有効となります。


 どういう制度かというと、私も誤解しているかもしれないのでもしかしたら間違ったことを書くかもしれませんが、農産物を分類し、それぞれの作物ごとに「使ってもいい農薬」をリスト化し、それ以外の農薬は使ってはいけないという仕組みです。今回の規制の場合、リストに入っていない農薬が作物から検出(0.01ppm以上)された場合は出荷停止になります。
 具体的には、例えば菜種を作る際に、水稲用の農薬を使って、後にそれが検出されてしまうとその菜種は販売禁止になるという具合です。両方でOKが出てる農薬ならばOKですが。


 さて、消費者が一見すると、「そんなのは、当たり前だ」と思うかもしれませんが、これは実に大変な制度で、生産者は頭を抱えています。
 というのは、農薬という物は多少ドリフトするのが当たり前だからです。ここで言う「ドリフト」とは、タイヤを滑らせる走行テクニックのことではなく、自分の意図していない場所にまで農薬が飛散してしまう現象のことです。


 例えば、粉状の薬を撒く場合、風に乗れば自分の田んぼ以外の遥か遠い場所にまで飛んでいってしまうことはよくあることです(大量に、というわけではないけど)。
 まあ、あまり適当に撒きすぎることはもちろんよくないわけですが、そういうものとは別に、絶対防ぎようのないドリフトというのも存在します。例えば水路で繋がっている田んぼと畑などの場合、その水路から水路へと土壌ごと農薬が移動する事があります。農地のあちこちを飛び回る鳥も、足に泥や農薬をつけつつ移動します。


 そして、日本の農場はかなり狭いものです。田んぼの隣で野菜を作っている、という光景は珍しい物ではありません。むしろ、結構ありふれています。
 そのような場所で、農薬のドリフトを100%防止することは不可能です。役所の人間などは「風のない日にやればよい」「フェンス等を立てて防止すればよい」などと言いますが、これは実際の仕事を知らない馬鹿が言うことで、植物や気候・天候などこちらの都合に合わせてくれないもの相手の商売である農業に「風のない日を待て」と言われてもそんなことしていては仕事にならないし、フェンスなどいくら大きな物を立ててもドリフトは起こります。水路を通る場合はもちろん無関係ですが、たとえ2mのフェンスを立てても粉の数グラムくらいは簡単に飛び越えるし、飛び越えたことを肉眼で確認することも不可能です。


 で、果たしてドリフトすることはそんなにまずいことなのでしょうか。実は、全然そんなことはありません。もちろん、これまでは普通にドリフトが起こっていて、それでもほとんど全ての野菜は今までまるで問題がなかったわけです。
 そもそも0.01ppmという基準は相当厳しいもので、まあ農薬の種類にもよりますが、現在の日本ではこれだけ残留していて健康被害が出るような農薬など存在していません。中国にはありますけど。


 またさらに、2次的な風評被害もあり、それに関しては以前も取り上げた松永和紀氏のコラムに詳細に取り上げられています。
 http://biotech.nikkeibp.co.jp/fsn/kiji.jsp?kiji=576
 私は過去に、このブログで、あくまでも噂として、販売者が米の農薬残留を測定しなくてはならなくなるかも?と書いたことがありますが、野菜の分野では実際に動きが起こっているそうです。もちろん、松永氏も書かれているように、こんなことは実際には実行不可能な上に、やらせることそのものが非科学的です。


 仮にポジティブリスト制を完璧に把握して、十分な注意の元に生産を行っても、しかしリストから洩れた農薬が残留することはありうる。これは当たり前のことで、しかも特に問題があることではないのですが、そういうことを規制してしまうのは「問題の肥大化」を生むでしょう。つまり、田んぼの横に隣接した畑の野菜は怖いのではないか?という風評です。実際には、何の問題もないことだったのに、言えば「火のないところに煙を立ててしまった」わけです。

 そしてさらに困ったことに、果たしてポジティブリスト違反の残留が起こったかどうか、作物を収穫した際に確認することは不可能です。や、もちろん専門の研究機関で測定してもらえばわかりますが、相当の期間とお金がかかります。「どの収穫物に残留しているかわからないから、全部測定する」などはっきり言って無駄ですし、そもそも、そんな余裕を持っている農家など今はほとんどいません。


 農薬に関する情報は、農家の間では結構ありふれていますが、しかし消費者に対してはまったく無いと言っても過言ではありません。消費者の間にある情報とは、無根拠に「農薬は危険だ」とするものばかりで、本当の農薬の扱われ方からは遠く離れた情報ばかりです。


 ところでなんだか、PSE法といい、最近決まる法律は全て、活動を圧迫する方向に向けて動いてるような気がしてなりません。立法府の人は、自分たちは現場に対してド素人であるという自覚を持ってください。農業をやったことない人は農業について口を出すべきではない、なんてそんなことは言いませんが、それにしても非現実的すぎる規制が多い。多少の勉強の跡も見えないんだもの。


koume