「有機農法」で作られた農産物というものがあります。たいてい高くて数は少なく、品質が良いとされています。
有機農法でない、つまり普通の農法で作られた、一般的に広く流通されている農産物に関しては農薬が心配とか、除草剤とか殺虫剤がどうとかよく言われます。
有機農法と、そうでない普通の農法(こういう言葉は一般的ではありませんが、ここでは「化学農法」とします)の違いはどういうことかというと、有機農法の場合は、牛糞や鶏糞などを加工した堆肥を肥料とするのに対し、化学農法の場合は科学的に合成された化学肥料を使います(追記1)。このふたつの肥料の大きな違いは効き方で、有機肥料は土壌に効くのに対し、化学肥料は作物に直接効きます。
有機肥料は土壌の微生物や栄養分を富ませて、作物への影響は間接的になりますが、作物の根が栄養を求めて土中に深く入り込むようになるので生命力が強くなり、味に対しても良い傾向が見えます。
ただし有機肥料は高価です。しかも、撒く量も多くなります。
化学肥料の場合は土壌の表面に撒いて、作物の根はそれを求める為に根は土中にあまり入り込みません。化学肥料は撒きムラがあると作物の生育にもムラが出来ます。
また有機農法の場合、除草剤や殺虫剤などの農薬も極力使わないようにします。ちなみに、減農薬農法というのもあり、これは有機肥料は使いながら最低限の除草剤なども使うやり方です(追記2)。
なんか世間的には、化学農法にメリットはまるでないかのような扱いをされています。有機農法こそが絶対的に正しく、化学農法は農家の儲け主義の為に編み出された農法であるとか、そういうニュアンスで書かれたものはいくつも見た事があります。
私は別に、化学肥料は優れている!とか言うつもりはありませんし、うちで実際にやっているのは減農薬ですが、ああいう事を書く人はきっと現実の有機農法というもののことを知りません。
有機農法は、ものすごく手間がかかるのです。手間を惜しむ、楽がしたいとかいう意味ではありません。専業農家が完全な有機農法を行うのはほとんど無理なほど、大量な手間がかかるのです(もちろんごく少数、専業でも何とか有機をやっている人もおられますが)。
化学農法を行う農家は楽がしたいから化学肥料を使っているのではなく、あくまでこれも、世間のニーズです。高収量低価格を求めるとどうしてもこうなるのです。何しろ現代、高収量のみを求める卑しい農法だと評論家に貶められる農家がいっぱいいてもそれでも米の自給率は80%程度です。
有機農法は、いろいろな意味で、江戸時代の農法だと思います。古臭いとか時代遅れだとかいう意味ではありません。木工大工とか、昔からの技術を現代の道具などで行っている分野は他にもいっぱいあります。
有機農法は手間がかかる分、生産量が落ちざるをえません。田んぼ一枚あたりの生産量ではなく、田んぼの枚数自体を減らさないと、作業が追いつかないのです。
もともと田んぼを5枚くらいしか持っていない兼業農家の方なら何とかこなせる作業量ですむかもしれませんが、田んぼを100枚以上作っている専業農家が除草剤を全く使わずに草刈・草引きをすることになると・・・大変な作業量です。
雑草が生えまくった田んぼの草引きをしたことのある方はそんなにいないと思いますが、ものすごく大変ですよ。田んぼ一枚につき大の大人3人で仕事して3時間くらいはかかるでしょうか。除草剤なら1人で30分で済みます。その分、たくさんの田んぼを回ることが出来ます。
1枚につき3人3時間ということは、単純に計算して1日3枚しかできないって事です。120枚の田んぼを回るためには40日、6人使っても20日かかりますね。非常にしんどい作業なので毎日は到底出来ませんが、仮にやれたとしても20日後には新しい草がまた生えている上に、仕事は草引きだけではありません。他の仕事がたくさんある中で草引きだけでそんなに人手をかけていられません。また、その分、人件費も膨大にかかります。
世の中、人件費ほど高くつくものはありません。除草剤などを使わなくても、草が生えないならそれはそれでいいのですがそんなわけにはいかないのですから、高コストの人件費でもって草を取るしかないのです。
そして出来た米が、それなりに見合った額で売れるならまた話は別です。が、農薬使用に渋い顔をするおばさんも、10キロ1万円の米は絶対に買ってくれません。実際にはそれ以上のコストがかかっているのですが、そんな値段では売れないし、売れなければ農家は生活していくわけにはいきません。
うちの米は他所よりはかなり高い価格で売っているのですが、しかしコストと売り上げで計算するとほとんどカツカツです。減農薬栽培で除草剤の使用量も少なくしているので、高い価格で売っていても全然ぼろ儲けにはならないほどコストはかかっていますし、品質には価格以上のものがあると自信を持っています。それでも、完全有機農法に踏み切る気には到底なれません。
江戸時代に出来ていた農法が、なぜ現代では出来ないのか、という人がたまにいます。そういう人たちが忘れているのは、江戸時代には人口の8割が農民だったということです。1件あたりの生産量がたいした事はなくとも、人口のほとんどに行き渡るだけの生産量をあげる事が出来たのです。現代にそれをやると・・・まぁ、都市部で国産の米を食える人はいなくなるでしょうね。
化学農法を持ち上げる気は特にないです。ただ、農薬や除草剤を使うことは世間でのイメージほど悪いことではありません。今の農薬取締法の基準は恐ろしく厳しくて、完璧に守ると農作業に支障が出るほどです。ほとんど全ての農産物は、化学農法であっても安全です。
ちなみに、有機農法をやったところで、それがすぐに有機栽培農産物になるというわけではありません。なんだかとんち問答のようですが、ここにまたくだらないお役所の基準があります。次回はそれを書きます。
追記1:有機肥料というと、牛糞などを肥溜めからすくって・・・というやり方をイメージする方がいまだにいますが、そんなことをしている人は今はほとんどいません(いることはいるが)。牛糞や鶏糞をペレット状に加工した有機肥料というものが市販されています。
追記2:農作業の方法としての有機農法・減農薬農法というのは今でもありますが、農産物としての有機栽培農産物・減農薬栽培農産物というのは実は今はもうありません。法律的にそれらはまとめて「特別栽培農産物」と名称変更されています。有機などの呼び名が消費者にとってわかりにくいから、という理由でこうなったのですが、特別栽培などと余計にわかりにくくなってしまったのではないか?と思うのは私だけでしょうか。
koume