今年ももうすぐ終わり
慌ただしいこの暮れに
訃報が、、
亡くなったのは知り合いの奥様だ
遠い昔
その知り合いは地位も財力もある人だった
会食の際に
おそらく私が会った女性の中で
1番美しいと思うひとを
連れてきた
真っ白な肌
漆黒の髪はボブで
さらに黒目がちの瞳で
スラリとしていて
黒のタートルに
グレイのフレアパンツ
足元はマノロのピンヒール
えんじ色のバーキンを持っていた
とても親しみやすく
人の話を熱心に聞き
そして、ウフフと笑う
嫌なこと感じは全くなかった
彼女は彼の愛人だ
そして
私は彼の妻には会ったことがない
愛人は
細く長い指で
ボルドーのグラスをスワリングして
静かに味わっていた
妻は2人の娘の世話をして
家事が終わったら
普段着で近所の居酒屋で
安い酒を1人で飲んでると
聞いたことがある
彼は
愛人と白トリュフを食べるためだけに
ピエモンテまで旅をした
楽しい旅の話を2人から聞いた
彼は
家族と北海道へ旅したとき
有名なホテルのフレンチの不味さに
感動すら覚えたと
愛人がいない会食の場で
そんな話をしていた
嫌な人だな…
ご一緒することを避けて
いつしか長い年月が経った
そのお知らせの差出人は
彼と娘の連名だった
そうか
妻は1人を耐えてきたのは
これなんだ
彼の生業を
自分の分身である娘に
継がせることだったのだ
それができるのは
唯一、妻だけである
それを見届けることができたのなら
救われたのかな、、
師走の街へ
お供物のお線香を買いに行く
沈香を…
その香りは
重く、深く、まとわりつくように流れていく
何故だろう、、、