ダイソン | バイきんぐ小峠の「見ル前ニ跳べ」

ダイソン

「それでは最後の質問です」


眼鏡をかけ仕立ての良いスーツを着こなし、端正な顔立ちがいかにも神経質そうな女性面接官が僕に向かって言った


長いニート期間を経て、何とかこの会社の面接までこぎつけた


”吸引力の変わらないただ一つの掃除機”という有名な売り文句で一躍脚光を浴びた「ダイソン」


そのダイソンの制作に携わる仕事だ


特別この会社で働きたいという訳ではないが、職種なんて選んでいられる身分ではない


そう世間はまだ不況の核にいるのだ




ここまでの質疑応答はそつなくこなしていると思う


悪くない手応えだ


出来ればこのまま合格したい



「最後の質問」と言った後、部下と思われるもう一人の小太りの男性が部屋の傍らにある箱から、掃除機をだしてきた


あれがダイソンか、初めて目にする


もしここで働くようになったら、否が応でもお世話になる代物だ


でもマズイことになったぞ


ダイソンに関する質問をされても、勉強不足で上手く答える自信がない


動揺を悟られないよう平静を装ったのも束の間、次の瞬間、僕の思考とは遥かに掛け離れた質問が脳天に投げつけられた


「このダイソンであなたのキンタマを吸ってください」


一体何を言っているのだろうと思った


目の前にいるこの女が何を言っているのか分からなかった


「聞こえませんでしたか?このダイソンであなたのキンタマを吸ってください」


眼鏡の向こうにあるまばたき一つしない冷静な瞳が、これが冗談ではない事を語っていた


「ご存じかと思われますが、このダイソンは他社の商品とは比べ物にならないくらいの圧倒的な吸引力が売りです。弊社で働いてもらう以上、この吸引力がどれ程優れたものなのか身を持って知って頂く必要があります。男性の身体の部分で、ダイソンの吸引力を一番実感出来るのは、他ならぬキンタマです」



たった今言われた事を頭の中でもう一度反芻してみたが、やはり上手く飲みこむ事が出来なかった



「どうされますか?決して強制ではないので無理なら無理で結構ですが、その場合現時点で面接は終了とさせて頂きます」


帰ろうかなとも思ったけど、チャレンジする事にした


せっかくここまできたんだ


これが出来れば多分合格であろう


「やります」


女性面接官の目を見ていった


「では脱いでください」


淡々とした口調で言われる




不思議と恥ずかしいという気持はなかった


銭湯にでも行ったかのように、僕は身につけている物を全て取った


そして小太りの男性社員がダイソンをホースを近づけてきて、スウィッチを入れた



キュイーン・・・


静かな室内に響き渡る独特の掃除機の音


少し躊躇したが、ここまできて後には引けない


僕は目をつぶってキンタマをホースにあてがった


ズボボボボボボボボボボボ!!!!!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!ギュヘギュヘギュヘギュヘギュヘ!!!ピリピリ!コマジュジュジュ!!!コママフニジニコ!!マフツジビュー!ビュー!ギュイカフニ!!モモモモォォォ!!!!!コジティティティヅヅジュリョリョリョ!!!!!


この世のものとは思えない絶望的な不協和音が部屋中を占領した


これでもかというくらいホースに吸い込まれてゆくキンタマ


それと同時に全身の水分が持っていかれそうな錯覚に陥る


これはもはや面接ではない


ただの拷問だ



目の端で女性面接官を捕えたが、眉ひとつ動かさない状態でこっちを見ている


いつ終わるんだ?


この拷問は一体いつまで続くんだ?


ホースを見ると、最初は片方のキンタマしか入ってなかったのに、今は両方のキンタマが中に収まっており、その超人的な吸引力を目の当たりにした


意識がもうろうとしてくる


目の前風景が歪んで見えてきた


あぁもうダメだ・・・


キンタマが取れる・・・





その時である


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!


というもの凄い音と共に目の前が真っ暗になった


全身に激痛が走り、まるでタイムスリップしたかのような感覚に陥る


一体何が起こったんだ


身体はいく数にも折りたたまれた状態になり、ひどく狭い場所に押し込まれたようだった


何とか顔を持ちあげ目を凝らすと、透明なプラスチックの板ひとつ挟んだ向こう側に、あの面接官の女がいた


今自分の置かれている状況を把握するのに数分の時間を要した



そう、僕はダイソンに吸いこまれて、ダイソンの中にいたのだ


ダイソンの強力な吸引力はキンタマを吸い取るだけでは収まらず、僕そのものを吸い取ってしまったのであった


何て奴だ・・・



少し冷静さを取り戻した僕は、とりあえずこの窮屈な場所から解放してほしいと目で懇願する


女が近付いてきて、ダイソンの横に付いているボタンを押すと、透明なプラスチックの蓋が開いた


「どう?これがダイソンの吸引力よ」


すっぽり納められた僕の身体を見下ろしながら女が言った


「とりあえず面接は合格よ。おめでとう、明日から会社に来てちょうだい」


僕は疲労困憊の為、頷く事しかできなかった


女は唇の端を持ち上げ、初めて笑みをこぼし、その一瞬見えた口の中からは矯正器具が顔を覗かせていた





告知


9月18日(土)
「芸人将棋」
場所:ルミネtheよしもと
開場:18時半 開演:19時
前売:3000円 当日:3500円
出演:バッファロー吾郎/ケンドーコバヤシ/ハイキングウォーキング/ピース/土肥ポン太/とろサーモン 村田/Bコース ハブ/ハリウッド・ザコシショウ(SMA)/バイきんぐ(SMA)/キングオブコメディ/ザ・ギース(ASH&Dコーポレーション)


明日ですね


とんでもねーメンツです


ぶち込んできます