交換小説(仮)
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顔合わせ2


tuki
握手を終えると、ハリネズミはあっ、と呟いてピンクのリュックから紙袋を取り出す。

出て来た紙袋はくしゃくしゃに、ハリネズミの掌によるしっぽり感も加わって「しゃっぽり」となった。


「これ、福岡のお土産です。つまらない物ですが、皆さんでどうぞ。」


航平とハリネズミの一連の遣り取りを見ていた研究室の一同が息を呑んでしっぽり袋に注目した。


ハリネズミの福岡土産。


博多練りもん、悪口せんべいと言った老舗銘菓。

明太子ポリッツ、博多ラーメン味ベビーどんラーメンといったご当地限定スナック菓子。

刺激物には敏感そうだから明太子はなさそうだ…など、想像をめぐらす。


しかし袋の中からは例の「怨み辛みも百里まで」が現れた。


「それ何だよっ!」


すかさず村正がつっこむがハリネズミには届かない。




顔合わせ


jinjya
田主丸教授はしばらくぽかんとしていたが、はいはいはいはい、と言いながら一番目と三番目のはいの時に大きく2回頷いた。


正直、このハリネズミが何者なのかよく分からなかった。だがそれはこのハリネズミに始まったことではない。


乙女宝大学は総合大学ということもあり、毎年何千という学生が入ってきてはそれぞれの大学生活を謳歌し、出て行く。(中には燻って留まっている者もいる。)


教授という職に就いてからニ十数年、田主丸教授の前を「生徒」として通り過ぎていく人数は一般教養課程として全学部受講可能な講義を持つようになってから飛躍的に増加しており、把握など到底不可能である。


それでも自分を先生と仰ぐ、慕う、もしくは講義の登録上そう呼ぶこととなってしまった者に対しては、先ほどのように一定の理解を持っているような体で接するようにしている。


たとえ講義の修了間際に背中にテニスラケットを背負って教室に入ってきて


「先生もインディーみてえに鉄の玉に追っかけられたことあるんスかぁ?」


と尋ねる者であっても。


そういえば、と田主丸教授は一週間ほど前に小城錦学長から、福岡だか長崎だかからハリネズミだかアルマジロだかが聴講生としてやってくるから世話してやってくれと言われていたことをぼんやりと思い出した。


「ああ、針山君だね!」


そこに八景島航平が助け舟を出した。


研究室のメンバーは学部4回生から博士課程、准教授、教授までで構成されており、修士1回生が全体を取り仕切る役目を与えられている。彼は修士1回生のリーダーである。


航平は挨拶・自己紹介など一通り終えると、


「今日の3時から新しく入ってくる学部生と一緒に顔合わせと研究室の説明をするけど、分からないことがあったら僕に聞いてくれればいいよ。」


と言って体に比して小さく、そしてちょっぴり湿ったハリネズミの手をぎゅっと握ってにっこり笑った。


航平は順応生が高く、何でも受け入れるのが早い。

三人の姉を持つ末っ子として育った彼はどんな事でも起きるということを学んできたのだ。


姉妹喧嘩で中身の入った1リットルの牛乳パックが飛んできたり(1キロの重みを持ったパックの角はかなりの鈍器となる)、

八景島家長女がトレビの泉教(全宇宙のエネルギーはトレビの泉から溢れていると信じている信仰集団である)にはまり、実家の庭に200万円のミニトレビを設置してしまう、なんてことは人生の中でよくある事だ。


ハリネズミが同級生となろうが、そのハリネズミの掌が予想に反して湿っていようが、「よくある事」だ。


そんな航平の笑顔をハリネズミは好ましい、と思った。








挨拶4


neko3


がぼもごぼがもら~


がたが来ている木の板は見た目以上に重く、引き始めに力を要した。

なまじしっとりした両手を掛けて力をかけたために、ハリネズミの予想と努力に反して引き戸は仰々しい音を立てて勢いよく開いた。


中の者が一斉に入り口付近を振り向く。


ここへ通っている者は引き戸の重さを重々承知している。

そんな大袈裟な音を立てて戸を開けるのは初めて訪れる人間に違いなかったからだ。


しかし、初めて訪れたことに違いはなかったが、「人間」ではなかった。


ちっ、という舌打ちに続いて、

「ハリネズミかよ!」

と誰かがつぶやいた。


「村正くん、しっ!」

と秦本瓏有子にたしなめられた村正洋祐である。


ハリネズミは舌打ちにもつぶやきにも気付かない。誰にするでもなく会釈をしながら、きょろきょろと辺りを見回している。


そこへキャビネットの影からぼてっとした小太りのおっさんがぬぼーっと現れた。

うねったグレーの髪、グレーのポロシャツ、ベージュのパンタロン、合皮のサンダルというぱっとしない組み合わせに、靴下だけ黄色の生地にオレンジと水色の水玉模様の入った珍妙なものを履いたおっさんがしげしげとハリネズミを眺めている。


おっさんと視線の合った瞬間、ハリネズミはへらへらと微笑んで呼びかけた。

「椋鳩田主丸教授!今年度から聴講生としてお世話になる、針山です。針山すなおです。」







挨拶3

neko












                                                      学長室を出て階段を下り、建物の中を東に向かって突き進み外へ出る。

この辺りはだいぶ構内の中心から外れ奥まった場所のためか、先ほどの喧騒が嘘のように静かだ。

狭い道を挟んだ向かい側に文学部第一号館、通称東館はあった。


ハリネズミの目指す考古学研究室はこの東館の一階にあるらしい。


東館は中庭を持ち、それを囲むように建物がぐるっと一周している。

場所に不案内なハリネズミは一つ一つの部屋を確認していくことにした。


一つ目、二つ目、三つ目…小さな黒板とコの字型に並べられたスチールの長机だけがあるゼミ用の講義室や、上下式の二面の大きな黒板があり、宇治に広がる茶の段々畑のように木製の机が延々と続く大講堂など、大小規模のさまざまな部屋が続き、そのどれもがまだ春休みのために人気は無く、がらんとしていた。


何度目かの部屋をのぞき東館をほぼ一周しかけた頃、校舎の北側に位置する薄暗い場所にやっと、引き戸の上に「考古学研究室」とプレートが張り出された部屋を見つけた。


ハリネズミは戸の前で立ち止まり、プレートを見上げてもう一度ゆっくり確認をする。

手のひらはしっとりと汗をかいている。


一度深く息を吐いてから、引き戸に両手をかけて丁寧に、そうっと開けた。

池袋

池袋は想像どうり陰気だった。

雨のせいで駅構内の床は濡れていて。

大嫌いだった高校のプールの更衣室を思い出した。

地下からはほのかな熱と池袋の臭いが立ち上っており、ますますげんなりした。


「はぁ~ぁ。なんでこんなところ来ちゃったんだろう。」


独り言。

わざと声に出して言ってみたりした。


今日、これから会う予定のミカちゃんという子は。

笑顔のひとなつっこい、かわいらしい子だったけれど。

単発で入ったバイトでたった3日だけ一緒になっただけの子。

なにせ、もう半年も会っていないし、この間メールが届くまで存在すら忘れていた。


こんな陰気な街で、よく知りもしない子と。。

いったい何の話をしたらいいのか。



「いま、池袋着いたよ」


メールをした。



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挨拶2


daikoku



小城錦はチョコレート味”怨み”を頬張り、ハリネズミに話しかける。

”怨み”を選ぶまでには少しの葛藤があった。


小城錦はチョコレート味が好きだ。そしてお菓子の抹茶味はあまり好きではない。


パッケージに書かれてある”抹茶味”という文字と、鶯色には惹かれる。殊に京都に住んでいれば目にする機会は多い。

「美味しそうだな、食べてみたいな」と思う。


しかし、実際はあまり抹茶の味がせず、抹茶感が楽しめないことがある。

だからもう期待はしない。


そして小城錦は好きなものは後までとっておくタイプである。

かつての給食では脱脂粉乳を真っ先に飲み、揚げパンは昼休みに入るかどうかという頃、おもむろに食べていた。


そのような傾向から言えば抹茶味”辛み”を選ぶはずだが、秘書の錣山直子に食べられてしまうことを考慮に入れ、あえてチョコレート味をとったのである。


「針山君、君に在籍してもらう文学部・考古学科はこの建物を出て東の建物にある。

 教授には君が今日来ることは伝えてあるからあとで挨拶に行くといい。

 みんな君が来るのを楽しみにしているよ。」


「ありがとうございます。では早速行ってまいります。」


針山とよばれたハリネズミは小城錦に一礼し、リュックサックを再び背負いくるりと回れ右をすると入ってきた扉を出て行く。


歴史ある乙女宝大学文学部考古学科の門戸を叩くために。



山手線外回り

新宿から池袋。

家を出るときに降っていた雨は止んだようだ。
携帯電話で時間を確認する。13時20分。

待ち合わせの時間にはなんとか間に合いそう。
いつもギリギリになってしまうのだ。そう…いつも。

池袋なんて、めったに降りることはない。なんか嫌いなのだ。
せっかくの休日の昼間っから、池袋なんて。。
重たい空のせいか、左手に持った雫の落ちる傘のせいか。
急にとほうもなくめんどうになってきた。

池袋に向かっている理由。

それは…1週間前に届いた

[メール]
こんにちわ。お元気ですか?
久しぶりにおしゃべりしたいな!ランチでもどうですか?
そうだ!今度の3連休の最終日はどうかな?忙しいかな?


以前のバイト先で知り合った1つ年下の女の子からの誘い。
なんだか、その日は気分が良くて。
たまには、いつもと違った人と話すのもいいかも。とあまり考えず承諾してしまった。

わたしのルール。
日曜日は完全に休むこと。誰にも会わない。電車にも乗らない。
3連休なら、それは最終日に適応される。
つまり土曜日と、日曜日に外へ出かけても、3日目の月曜には、

外出をしない…

あぁ。ルールを破ってしまった罰だ。




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挨拶

udon

小城錦はあられを食べながら『どんとこい日本列島』を見ているところであった。

レポーターが日本各地を回り、その地方の郷土料理、文化、人々の交流を描くという番組である。

今日はレポーターの莫高窟さんが瀬戸内海に浮かぶ小島の小学校を訪れて、子供たちと一緒に海の幸たっぷりの給食を食べるという内容であった。


ハリネズミが入ってきたので小城錦はテレビを消し、彼を出迎えた。


「やぁ、遠いところからよくやって来たね。ご苦労さん。」

「学長、ご無沙汰しております。こちら福岡のお土産です。」


ハリネズミは深々とお辞儀をし、背中にいれた土産を探す。


京都に向かう電車の中、ハリネズミはリュックサックを抱えて眠りこけてしまっていた。

電車の心地よい揺れと共に、意識が抜けたハリネズミの体も前後左右に大きく揺れた。

そのため取り出した紙袋はくちゃくちゃであった。


少し取り繕って紙袋を小城錦に手渡す。もちろん長旅で刻まれた皺は少しも取れていない。


「いや~、わざわざすまんね。」


小城錦は受け取るや否や紙袋から箱を取り出し紙包みをあける。


開けてみるとそれは、いわゆる洋風どら焼きの『怨み辛みも百里まで』であった。


それは大宰府天満宮に祀られた菅原道真公が京都から大宰府へ左遷された恨みで怨霊となったことにちなんだネーミングである。

怨みを茶色、辛みを抹茶色で表現し、どら焼きの中身はチョコカスタードと抹茶カスタードの二種類である。


莫高窟さんの美味しそうに鯛めしを頬張る姿を見ていた小城錦は少しがっかりした。


しかし彼は甘い物にも目がなかったのでそれを喜んで受け取った。






最終電車

月曜の最終電車、もう少女とも言えぬ、ひとりの女が揺られていた。
ガラガラの車両。今朝の通勤ラッシュの乗客を半分くらいぶち込んでやりたいと思った。
目を閉じても、眠気はやってこない。かといって手頃な小説も持ち合わせていない。
ただ1つの曲をひたすらにリピート再生していた。

ブルルルルルルルル。ブルルルルルルルル。
バックの内ポケットに入れた携帯電話が振動している。

[メール]

年に数回、思い出しように子どもの写真を送りつけてくる、中学の同級生からだ。

FW:
甲子園を目指していた渡辺くんが、親に内緒でミュージシャンをやっているそうです!
こんどの三連休の最終日、池袋でライブをします。
興味のある人は是非、是非足を運んでください!!!!
知っている人に教えてあげてね。

上京2

hiyoko
京都のバスの運転は荒い。ハリネズミも他の乗客と同じようにバスの急発進急ブレーキと共に体を揺らした。その度に周りの乗客がひやひやしたのは言うまでもない。


しかし、ハリネズミ界の常識であるが、ハリネズミの針はいつも立っていて触ったら痛いというものではない。


普段針は寝ている。上向きに伸びているサボテンの針を下から撫でれば痛くないように、寝ている針は危害を加えない。


だから実際問題、乗客が針と一定の距離をとったり、ひやひやしたりする必要はないのだ。


しかしバスが京都の真ん中に存在する、乙女宝大学前に着いた時には乗客もまばらになっていた。


ハリネズミにもシートが与えられ、すべての乗客が針からの圧迫感から開放され揺られていた。


ハリネズミはここで降車する。




大学の構内は揃いのウィンドブレーカーや柔道着や袴を着た学生らによる新入生のサークル勧誘で賑わっていた。


サークル紹介のビラを配ったり、名前と連絡先を尋ねているグループもある。


しかし誰もハリネズミには声をかけない。


ハリネズミがこの学校の学生であるとは誰も微塵にも思わなかったからである。




というわけでハリネズミは誰にもその歩みをと留められることなく、ちょこちょことキャンパス内を突き進んでいく。


ハリネズミが向かったのは厳しい造りの学長室である。


ノックをすると


「どうぞ」


と中から声がする。


扉を開けるとハリネズミを待っていたのは学長の小城錦嚆矢であった。