最初の2週間は「はまやん」は自分より年下の先輩社員たちを立てて非常に良い新入社員力を発揮した。朝早く来て机の拭き作業や掃除なども率先してやっていて、以外にも社交性も十分あった。


理系の人間であるから我々コンサル会社の飛び込み営業は非常に難しいと思ったが、意に反して俺の予想よりかははるかに及第点をとっていた。


しかし3週間を超えるあたりからやつに異常が見られ始めたのである。


突然やつは会社の恒例である朝の会議に出席しなかった。


この会議では一週間やつに頼んでおいたホーチミン商工会のリストの製作の進捗を聞く予定であった。


最初は「病気かな?」と社員全員が考えた。なぜなら今までやつは会議に遅れたことがなかったからである。それどころかいつも1番早くては掃除をしているくらいである。


そこで俺は心配になり、電話をかけるのであるがこれがまた一向につながらない。

しかたなく「どうした?大丈夫か?」と留守電を入れておくが一向に返答は無い。


しかし昼を過ぎてやっと電話がつながるようになったので俺は言った。


「はまやん!お前なんで今日の会議に出席しないんだ?何かあったのか?」


するとやつは以外に落ち着いた声で

「社長、今朝の会議で私の言った通りホーチミン商工会のリスト製作は終わってますよ」とやつは言い切った。


しかも余裕の対応である。


俺はその対応にダブルで怒った。

「何を言ってるんだ?そもそもお前は今朝の会議に出席してないだろが?だから今心配になって電話をしているんだろが!」


「社長、会議には出ましたよ。社長ともいろいろ話をしたじゃあないですか?うそだと思うなら他の社員に確認してくださいよ。全員ぼくのリストを見てますよ」とのこと。


俺は一瞬「パラレル・ワールド」という言葉を思い出した。

まさか俺は何かのはずみで「全く違う世界」に来てしまったのか?


しかしそんなことはない、社員も全員

「はまやん遅いなー」

「病気かなー」とか言っていたからだ。


やつは絶対今朝は会議に来ていない、ましてや俺と会話などしていない、断じて間違いない。


ちょっと先ほどよりは怒りのテンションが下がりつつ

「わ、わかった。とにかく元気なことが確認できた。明日はちゃんと会社にくるんだぞ」と俺は電話を置いた。